公演の片付けもおわり、肩の力も抜けた、うららかなその日の午後。
彼、大神一郎は図書室の椅子の上で睡魔のささやきに身をゆだねていた・・・。
大神が最初に感じたのはゆっくりとした浮遊感だった。
そして、何処からか漂ってくるあまい香り。
暖かな何かがそっと自分を包んでくれているような、そんな感触。
・・・あったかい・・・。
理由もなく安心してしまう。
小さなため息が洩れ、 口許がやわらかな微笑みを浮かべる。
このあまい幸せをいつまでも感じていたかった。
不意になにかとても暖かいぬくもりが彼の髪に触れた。
その癖のある黒い髪を、それは優しく、優しく、撫でていく。
やわらかく、あたたかい。
あたたかいまどろみの中、その優しいぬくもりが大神にはこの上なく心地良かった。
・・・気持ちいい・・・。
・・・なんだろう、この感じ・・・。
そんな問も、かすかに心に浮かぶだけ。
その答えを探すよりも、今はこのぬくもりを感じていたい。
大神は、知らずそんなことを願っていた。
・・・この匂い・・・。
彼の大好きな匂いだった。
・・・大好きな人の匂いだった。
その甘い香りの持ち主は・・・
・・・。
目覚めた大神が見たものは、肩にかけられた一枚の毛布と・・・