report & column




 在宅就労と社会参加のはざまで

 長谷川 丈生(ウェルドニッヒ・ホフマン型筋萎縮症)



■「したいこと」から「できること」へ

 子供の頃、学校に入る前の私の夢はパイロットになることでした。しかし、いくつも年を重ねないうちに、それが決してかなうことのない夢であることがわかり、いつしか自分の「したいこと」から「できることへ」と夢が変化し、コンピューター・プログラマーになって普通に仕事をすることが自分の目標となりました。             
 小学生の頃、市の青少年センターで行われていた夏休みパソコン教室に出席してから、パソコンを使用することで自分の世界を広げられることを当時強く感じ、パソコンの技術、スキルを身につけるため学校もそちらの方向へと進みました。

 病状の進行はほとんど変化はなかったのですが、やはり自分で着替えなど何一つできない現状が当時からありましたので、学生当時より在宅でできる仕事というのを自分自身で考え始めました。在宅プログラマーというのも考えましたが、高校当時やっていたパソコン通信での情報により、これもまた自分自身で動いて営業しなくてはならず無理であることを感じ取りました。


■ T-NETwork

 当時は「家で仕事」など遠い夢のように漠然と感じていましたが、インターネットの出現により現実味を帯びて来た時、遊びで始めたインターネットでたまたま知り合った友人たち数人とホームページ制作を初めてしたことが、私たち『T-NETwork』の始まりでした。                  

 その後、何人かの「自宅で仕事をしたい」という意志の人がインターネット上に集まり「インターネットを使って自宅で仕事をするには、どうしたらいいか」ということで活動を始め、メンバーは現在、健常なスタッフが3名と障害を持ったスタッフ5名の計8名で(うち道内4名)、普段顔を合わせることなくネット上だけで仕事のやりとりをして作業を進めています。            

 メンバー全員は「メーリングリスト」と呼ばれる送信したメールが登録者全員に送られ、全員が見ることのできる掲示板のようなシステムで、全てのコミュニケーションを行います。仕事のやりとりも、ほとんどこのメーリングリスト上で行います。 

 それぞれのスタッフはフリーで、お互いができる仕事を、その仕事が来たときに分担して作業を進めていきます。仕事を受けた人は「発注者」となって作業をできるだけ細分化して「作業詳細」「作業金額」「作業締め切り日」などの情報をまとめたものをメーリングリスト上に公開して、これを「発注」して作業の立候補者を募ります。       

 立候補したメンバーは「作業の受注者」となって作業を締め切り日までに仕上げます。立候補できるのは障害を持ったメンバーだけで、健常なスタッフは必要があれば立候補したメンバーのサポート(技術的にわからない部分があったらそれを教えたり)としてボランティアでそれを行います。締め切り日までに、各自、自分のペースに合わせて好きな時間に作業をします。

 作業内容についての質問や、技術についてわからないことがあれば、これもまたメーリングリスト上で質問を出してもらい、作業の内容についての質問は発注者が、他の技術的なことについてはわかる人が答えます。  

 作業についてはできるだけ締め切り日を厳守してもらい、納期に間に合うようにして仕上げます。仕事としては、ホームページ制作、カタログ制作、飲食店メニュー制作の3種類の他に、常時行っているものとしてインターネットにつながっている独自の機械(サーバ)を所有し、ホームページ用の領域の貸し出しを現在行っています。サーバの管理、運営、お客への対応も全てメールで行います。

 私の仕事はメールを読むことから始まります。仕事の指示も全てメールで行います。締め切り日が近い仕事で緊急の用件がある場合は、メンバーと電話でコンタクトをとることもあります。              

 主にサーバの管理、銀行口座管理などを担当しています。銀行口座は銀行へ頻繁に行くことが難しいので、インターネット上で口座管理ができるインターネット・バンキングを利用しています。            

 マウス、キーボードは、床に寝た状態でこれを操作します。特に特殊なものではなく、普通のものを使っています。




■問題点

 インターネット上だけのコミュニケーションで在宅で作業を進めていくに当たって、様々な問題が発生しました。仲間同士の親密感がわかない、連帯感がない、孤独感におそわれる。

 メールは伝えたい必要事項が確実に相手に伝えられるコミュニケーション手段ではあると思いますが、やはり文字だけの表現になってしまうので、どうしても手が疲れた時などは必要最小限の文面になってしまい、文章を書くのがあまり得手でないと仲間同士での会話もうまくいかず、また一度も顔を合わせたことのないメンバーもいるため、あまり親密感がわかない。             

 結果として、普通に顔を合わせて仕事をするよりもコミュニケーションが疎になってしまう。デジタルな関係になってしまう。仕事の進め方もやった、やらないといったデジタルなものになってしまう。日々人と会う機会も仕事上ではほとんどないため、孤独感は強い。多人数での相談や意見調整ができない。

 作業の途中でわからない部分を相談するのもメールになるので、わからない部分がはっきりしていると良いのですが、わからない部分があっても文字だけではスムーズに相談し合えない。デザイン的なものなどのアバウトなものになるとなおさらで、ホームページ制作などにおいては、お客様の意向を実際に作業を担当する人間に指示することが難しい。
   
 また何か一つ全員で話し合いたいことがあっても、メールだけでは実際会って話を進めるより時間が非常にかかってしまい、意見調整がなかなか困難。テレビ電話などの利用についても、現在の公衆回線速度では難しい。回線速度の向上などのインフラ向上を期待したい。

 業務の受け渡し及び進行状況の把握がスムーズにいかない。一個の作業の進行で、その作業を担当した本人が作業の途中で体調を悪くしてしまった場合、サポートの人に代わってもらうというのが、なかなかスムーズにいかない。   

 理想としては、具合が悪くなるとすぐに代わってもらえるのが一番良いが、実際に自分がどこまで進めて、あとはどの部分をやると良いのかなどの作業の受け渡しが、体調が悪くなってしまってからだとメールだけでは難しい。アナログなものはより難しく、例えばホームページ上で使用するCG(キャラクター)制作などの場合、途中から代わって描くということは現実的に難しい。

 重度の障害者が在宅で仕事をする場合、やはりインターネット上のみのサポートだけではなく、随時相談し合える健常なスタッフが一人、側にある程度付き添うような形で作業進行をサポートする体制が一番望ましいと考えています。ですが、現実問題それも難しく、頭を抱えています。


■根底にあるもの

 以下、私の個人的な意見です。障害者のインターネット利用の在宅勤務については、どちらかというとむしろ否定的です。単なる理想の域を出ないかも知れないですが、もし外へ出ていき就労することが可能であれば、どんどんとできるだけ表に行って、移動などを他の方にサポートしてもらってでも決まったところへ通って働いた方がいいという見解でいます。

 在宅勤務は自分の家で好きな時間にできるということで「どんなに重い障害でも仕事ができる」という可能性が期待できる形態であるかと思いますが、逆に「人と接する機会がほとんどなくてもすむ職業形態」であることも事実です。        

 普通の職場であれば、人と直に接する機会が日々あるものですが、在宅勤務だとそれがありませんから、実際のところかなりの孤独感があります。        

 在宅勤務は「生活するためのお金を得ること」といった生活手段としては、体力に自信さえあれば何とでもお金を得ることができるかと思いますが「社会参加の手段」や「新しい人間関係を求めること」もしくは「生き甲斐を得ること」としての場としては、望めない形態であるように思います。      

 「在宅勤務」が今後どのように進化し、筋萎縮症患者のライフサイクルの選択肢の一つとしてどう存在していくかわかりませんが、このパソコンという道具だけが重度障害者、もしくは筋萎縮症患者のコミュニケーション手段や、外界への接点の全てであって欲しくはありません。             

 ただでさえ障害が重ければ重いほど、学業を終え、就労年齢に達してしまうと、表へ出る機会、人と接する機会が非常に希薄になってしまう現状の中ですから、家の中でできることではなく、もっともっと表の実世界へ出ていって仕事をしていって欲しいと思います。コンピューターのハードウェア技術の進歩とインターネットという便利な媒体の発達によって、家に居ながらにして買い物をしたり、メールやチャットで友人と話ができ、仕事もでき・・・と外に出ることなく家に居ながらにして何でもできるようになってきた便利な世の中ですが、やはり日々表に出て、人と直に接する機会がより重要だと考えます。

 パソコンは確かに便利な道具ですが、これに固執することなく「本当にしたいこと、夢」を「無理だから」ということで決して「できること」で妥協することなく、自分の意志をしっかりと前に出して夢を実現していって欲しいと思います。    

 個人の努力次第で学校や職業などを自由に選択ができ、またそれを物理的にサポートしていただけるような欧米に見られる環境が、早く日本にも実現していって欲しいと思います。

 筋萎縮症が治れば全ていいというものでなく、筋萎縮症患者として出生したその瞬間から選択肢のほとんどない、閉ざされたライフサイクルに一番の問題があると考えます。もっと夢を選べる世の中に早くなって欲しいものです。筋萎縮症であっても、パイロットになれるような日が来ることを願います。

 そのためにコンピューターという道具が今後どのような進化を遂げていくのか、使われていくのか、とても期待するところです。(平成11年2月)


●ウェルドニッヒ・ホフマン型筋萎縮症
常染色体劣性の遺伝様式をとる乳幼児期の脊髄性進行性筋萎縮症で、生後1年頃までに発病し、筋萎縮は体幹、上下肢に及び、筋線維束性れん縮を認める。知覚障害、膀胱直腸障害はない。比較的急速に進行し、発症から2〜3年以内に嚥下、呼吸に障害をきたすようになり、予後不良となるケースが多いとされるが一様ではない。脊髄性進行性筋萎縮症は、ほぼ左右対称性に進行する筋萎縮、脱力、運動機能障害をもたたす脊髄前角の運動神経細胞の退行変性疾患。

「北海道の四肢麻痺者たち、その生活術」 
(北海道頸髄損傷者連絡会レポート集) 
:第2集〜1999より転載  




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