自動車ノススメ 山田貴浩(C7・札幌市)
私は握力が極端に低下しているために細かい動作は困難ですが、今のところ日常生活においては特に介助を必要としません。元来不精な性格なので、褥瘡や体調維持など健康管理にはあまり気を配っていません。
労災年金を支給されているため経済的にはそれほど苦しくはないのですが、生きがいや社会へのつながりを持つために何か仕事が出来たらいいなと思っています。
受傷から約1年後の90年の夏に大網移植術という実験的な手術を受けました。“腹部にある大網という毛細血管に富む組織で形成した弁を皮下を通しながら鎖骨上窩を経由して後頚部まで伸展させ、受傷部の神経をその組織で包み損傷神経への血流を増加させる事によって神経細胞の再生を促す”というのがこの手術の概要です。この手術の事を知ったのは受傷から半年ほど経過した頃で、新聞で紹介されていたのを見て少しでも良くなる可能性があるのならと思い、医師に相談して手術を受ける事にしました。担当の医師はそれまでに行ったいくつかの症例の術後の経過などとともに、これはあくまで実験的手術でありあまり大きな成果は期待できないとも教えてくれましたが、当時の私は何でもいいからやれる事はやってみたいという心境だったのです。結果としては特にこの手術を受けた事による成果はなかったように思います。現在では大網移植術にはあまり効果がないというように認識されているようです。
私の退院に合わせ、以前から住んでいた家の建て替えをしました。土地が狭かったのでホームエレベーター(東芝)付きの3階建てとし、1階が車庫、2・3階を住居としました。私の部屋は3階、約10畳の広さでエレベーターから直接室内に入れるようになっています。隣に私専用のトイレがあり、ここはかなり広いスペースに洗面台を設置し、便座に座った状態で手の届く位置に風呂用のシャワー水栓を付けています。トイレ内は浴室と同じように防水にしました。便座は一般用のものを使っています。居室にはセミダブルの電動ベッド(フランスベッド製)を置き、ベッド上から手の届く場所に洗面台を付けました。部屋でコーヒーやお茶を飲む時など、いちいちポットや食器を運ぶのは面倒だと思ったからです。自分の部屋でほとんどの事が出来てしまうので、食事の時以外はここで過ごす事が多いですね。
1階の車庫にもエレベーターの乗降口があり、直接居室と行き来出来るようになっています。車庫のシャッターは当然電動式のリモコン付きで、雨・風・雪にあたる事なくクルマの乗り降りが行えます。
エレベーターを設置したために生じた1500×800mm程の空きスペースに出窓と机を作り付け、そこにパソコンを置きました。パソコンで何をしているのかと聞かれるとちょっと困ってしまいますが、私の場合は手紙(電子メール)やメモを書いたり書庫のように書類(ファイル)を入れたりと、自分の机代わりとして使っています。
このケガで入院していた時、高校時代からの友人が「どうせ暇だろうからパソコンでもいじってみたら?パソコンには色々な使い道があるし、将来の事を考えれば事務系の仕事に就く可能性もある。遊びとしても知っていて損はないよ。」と言って当時出たばかりの
ノートパソコンを薦めてくれたのがパソコンを使い始めた直接のきっかけでした。当時はワープロでさえあまり使った事がなかったけれど多少は興味を持っていたし、まだボールペンもまともに持てない状態だったので早速
NEC 98noteを購入しました。その98note は白黒液晶画面で今では考えられないほど低性能の機械だったためにワープロの代わりぐらいにしか使いませんでしたが、パソコンアレルギーを緩和させる程度には役立ったように思います。
退院して2台目の9801FAを購入した頃からWindowsの時代になり、私もすぐにWindows 3.0を導入しワープロソフトはMS-WORDにしました。この頃は麻雀やフライトシミュレーションなどのゲーム、ワープロソフトで個人輸入用の英文タイプやアドレス帳の作成などに使うのが主でした。同時にパソコン通信を始め、電子メールを使ってパソコンを薦めてくれた東京の友人に解らない事を尋ねたりしていました。パソコン通信には相手が遠くても最寄りのアクセスポイントまでの電話料しかかからない、聞いた内容をそのまま残しておける、そして相手が暇な時に通信を見て返事を送ってくれるので
相手の時間を気にしなくてもいいという利点がありました。また、パソコン通信のサービスには無料で使えるフリーソフトのコーナーがあり、中には市販のソフトより多く出回っているものや完成度が高く市販されるようになったものも数多くあり大変便利です。他にも主要新聞の記事が閲覧できたり経済、医療、福祉の情報を提供してくれるコーナーなど色々なサービスがあります。
現在はCOMPAQ-PROLINEAを使っており、流行のインターネットにつないだりしています。
さて、本題に入りましょう。
私は外出する時には常に自分でクルマを運転して出かけます。駐車禁止除外指定証明書を提示しておけば目的の建物の前や近くにクルマを停められるので、他の交通機関を使うよりずっと便利だからです。
私は頚損になる前から免許を持っていました。入院中に更新期限が過ぎてしまったため、退院前に入院証明を持って免許試験場まで出かけ運転条件の追加と再交付を受けました。そして自分用のクルマを購入してから退院したのです。
私のクルマは普通のオートマチック車に手動装置を付けただけのものです。手動装置にも種々ありますが、ブレーキやアクセルのペダルを簡単な機械によって手元のレバーで操作出来るようにするというのが一般的です。手動レバーを押すとブレーキ、引くとアクセルという具合です。この基本装置にウインカーやクラクション、ライトのコントロールなどの機能を付けたりする事ができます。装置の形や車種にもよりますが、取り付け費用込みで17万くらいからあります。
また私はステアリングに旋回装置を付けています。旋回装置とはドアのノブの様な形をしたステアリングを回し易くするための道具で、20年くらい前はトラックの運転手さんがよく付けていました。今でもオートバックスなどのカー用品店の片隅に置いてあったりします。これは邪魔になる事も多く敬遠する人もいます。その他にもウインカーレバーを長くしたり左側に廻したりする、鍵を持ち易くする、痙攣で過ってアクセルを踏んだりしないようにするための装置などがあります。
もちろん障害の程度によって差はあると思いますが、手動装置の操作自体はいたって簡単です。当然初めて使う時には違和感があります。でもすぐに慣れます。それよりもこの装置を初めて使う時というのは少なくとも半年以上クルマから遠ざかっている場合がほとんどで、その間全く運転していない訳ですからね。そちらの方がよほど心配です。
これらの装置は取り付けの際に運輸省に改造証明を提出する必要がありますが、ほとんどの場合は装置のメーカーか自動車販売店が代行してくれます。手動装置のメーカーもいくつかあるようですが、道内には岩見沢に北海道支店があるニッシン自動車工業(製品名〜APドライブ
、本社〜埼玉)とその系列の個人経営店しかありません。ホンダや三菱などの自動車メーカーでは自社製品の他、外注でAPドライブの取り付けを行っています。ディーラーでは手動装置の事をよく解っていない事が多いので、ニッシン自動車工業やその系列店に直接頼むのが一般的です。
ニッシン自動車工業北海道支店/岩見沢市志文町923-26 Tel. 0126-23-0805
(車椅子昇降リフトの取付けも行っています)
身体障害者の自動車購入に関係する助成制度として手動装置取り付け費用助成があり(最高額は10万円)、各市町村役所で手続きをします。他には自動車税免除、車両購入費用に対する消費税免除があります。
また身体障害者ドライバーには駐車禁止除外指定証の交付やスパイクタイヤ使用許可などの特例があります。駐禁除外証は管轄の警察署に申請すれば1カ月ほどで交付されるはずです。(免許証、車検書、身障者手帳が必要)これを提示しておけば駐停車禁止の場所以外ならどこでも駐車出来ます。
その他に高速道路通行料金の半額割引き制度もあり、各市町村の役所で50枚綴りの割引証を発行してもらい料金所で料金と一緒に提出すると割引が受けられます。割引証の発行には免許証、車検証、身障者手帳が必要です。割引証には各1枚毎に身障者手帳の番号と氏名などを記入しなくてはなりません。また高速料金を現金で支払うのは大変なので、ハイウェイカード(プリペイドカード)を使った方がいいと思います。ハイウェイカードはクレジット会社の通販でも購入出来ます。料金所では身障者手帳を提示して割引証1枚と現金またはハイウェイカードを係員に渡すのですが、ハイウェイカードを使う場合には必ず全部一緒に手渡すようにしてください。
何故かカードを後から渡すと手順に不都合が生じるらしく料金所で待たされる事になってしまうので、必ずハイウェイカードを一番上にして全部一緒に提出してください。スパイクタイヤ使用については特に手続きはいらないと思います。
私の現在の愛車はスバルインプレッサWRXワゴンで、頚損ドライバーとなってからはファミリア、ギャランVR4に続きこれで3台目です。このクルマは完全に自分の好みだけで選びました。ツーリングワゴンというトランクのないボディスタイルであるために雨や雪の巻き上げがリアウインドウに付着しやすく後方視界が悪くなる事があるのが欠点で、走行には問題はないのですが車庫入れの際に少し気になります。またオートクルーズ機能がないのが最大の欠点で、これは結構辛いものがあります。
車種選定にあたっては自分が乗りたいと思うクルマを選ぶ事を優先すべきです。オートマの設定さえあれば軽自動車からキャデラックやコルヴェットのオープンまで車種の選択は自由です。手動装置はほとんどの車種用のものが用意されているので普通は問題ありません。但し、過去に取り付けた事のない車種の場合には陸運局の認可に2ケ月近くかかってしまうので、早めに確認しておいた方がいいかもしれません。車高が極端に低い、あるいは逆に高い車種、またはHONDA-NSXのような2シーターさえ選ばなければ乗り降りも大丈夫でしょう。
ただ遅いクルマは避けるべきです。オートマの場合、エンジンが非力だったり車体が重かったりするとマニュアル車より明らかに遅くなります。遅くてもいいと言う人がいますが、クルマというのは周りの流れに合わせて走る必要があるので、ある程度速いクルマの方が絶対に運転が楽です。クルマが遅ければその分人間が迅速に判断しなくてはならず、それは精神的にも肉体的にも余計な負担が増える事になってしまいます。また一般に速いクルマとして位置づけられている車種ではエンジンだけでなくサスペンション、シート、内装、電装関係、その他各部の装備が充実しているので、結果としてそのようなクルマを選ぶ方が安全なのです。
シートは脇が盛り上がっていて体が横にずれないようになっている方が安定しますし、ステアリングはチルトステアリングがいいと思います。また2ドアより4ドアの方がドアを大きく開けられるので、駐車スペースの横幅が少ない場合でも乗り降りが楽だと思います。あとエアコンは頚損ドライバーには欠かせませんね。
車両購入までの一般的な手順を説明します。まず手動装置取付に対する助成金の交付を受けるために購入するクルマを決めたら取扱店で車両及び手動装置などの見積書を書いてもらいます。この時に手動装置の装着をディーラーで行うか専門店に任せるのかを決めておきます。この2通の見積書と身障者手帳、年金やその他の収入を証明するもの、免許証、印鑑などを揃えて市町村の役所で手続きをしてください。ついでに車両購入用と下取りの車両用に計2通の印鑑証明を作っておくと手間が省けます。助成金の審査には1〜2ヶ月程かかりますが、申請の手続き後に車両を購入すれば問題ありません。
次に車両と手動装置の注文をします。この時消費税や重量税の免除がある事を忘れずに業者に伝えておいてください。詳しくは手動装置業者で聞いた方がいいかと思います。
クルマが届いたら、有料道路の割引券を各市町村役場で発行してもらいます。手動装置装着助成金の審査が順調に終われば役所で振り込み銀行の指定などの手続きをする必要があるので、その際に一緒に済ませてもいいでしょう。あとは管轄警察署で駐車禁止除外指定車両証明書を発行してもらいます。これで終了です。
北海道に住んでいる頚髄損傷者の場合、クルマがないと冬場の外出はほとんど無理です。クルマがあれば泊まりがけの旅行で荷物が多くても平気ですし、ちょっとした買物にも気楽に行く事が出来ます。当然行動範囲も広がり社会とのつながりを持てるので、その結果色々な可能性も出てきます。しかも運転している間は完全に周りの健常者と対等の行動力を得る事が出来るので、自分の身体の事を意識する事はほとんどありません。車を降りた時に初めて自分の身体の事を思い出すくらいです。万が一外出先で失禁の失敗をしたとしても、自分のクルマまでたどり着きさえすれば何とかなります。車内にある程度の準備を積んで置けばいいし、すぐに家に帰る事も出来ます。そんな状態ではタクシーや地下鉄には乗りづらいけど、自分のクルマなら・・・。
自分を含め自動車のために障害を持った人も多く中には敬遠する人もいますが、少しでも可能性を拡げたい、豊かな生活をしたいと思うなら、移動手段として可能なら自動車を薦めます。知り合いの中には頚損になってから免許を取りに行った人も多く(免許取得費用に対する助成制度もあります。限度額は10万3千円)、クルマというのは障害を持っている人にとって健常者の場合以上に有用な物だと思っています。
最後にこれからクルマの運転を始める頚髄損傷者の方のためにアドバイスを少々・・・
頚損が自分でクルマを運転する時には携帯電話を持っていた方がいいでしょう。特に1人で行動する時には絶対に必要です。クルマが故障したり雪に埋まってしまったりした時の事を考えると、JAFと携帯電話と頼りになる友人は欠かせない存在です。また友人の家などに行った時にクラクションで呼び出すのでは格好悪いしちょっと不便です。
1人の時に最も困るのは駐車場です。まず入場する際の無人発券機。中には駐車券が少ししか出て来ないものがあります。私はクラフトテープを手に巻き付けたりして対処しています。それから駐車場出口の料金所が自動清算機の場合、これは諦めるしかありません。近くの人に頼みましょう。また駐車場内でクルマを停める時、私は自分の運転席側に他の車両が停められないように端のスペースを選んだり、それが出来なければ斜めに駐車するなどの工夫をしています。そうしないと戻って来た時にドアが開けられずにクルマに乗り込めないという事態に陥ってしまう事があるからです。このような事もあって、知らない場所では出来るだけ路上に停めるようにしています。
あとディーラーや修理工場に知り合いを作っておくと、整備や車検などの際にクルマを取りに来てくれたりして便利です。近くのスタンドも同様です。
(北海道頸髄損傷者連絡会レポート集・1997年)