ランニング障害

予兆の察知と対処

1999年秋、それまで運動とは無縁だった私は、ふとしたきっかけから走り始めました。準備体操やウォーミングアップ不足なのにいきなりのスピード練習、必要な筋力が備わってなかったこともあり、両膝を痛めてしまいました。痛みが取れた後も、しばらくは左膝に抜ける感覚が残りました。

その後も、トレーニングスタイルを大きく変えなかったため、内側半月板炎、シンスプリント、足底筋膜炎、原因不明の膝痛などなど、オーバーユースに起因するランニング障害を繰り返すことになります。

往々にして、レース日程が近づき、そろそろ練習量を落とし調整のステップに入ろうかという時期に故障はやってきます。ランナーにとっては天国と地獄を分けるこの一線は、実に微妙な加減ひとつで、越えたり、越えなかったりします。急激な力がかかったり、捻ったりといった突発的なケガと違い、長距離の走り(=繰り返し運動)に起因する故障の前には必ず何がしかの予兆があります。この予兆を察知し、どう対処したかで、一線を大きく踏み越えるか、踏みとどまるか、あるいは踏み出すにしてもその量を最小にすることで早期復帰を果たすかが決まります。

予兆の察知と対処法は、ランナーのキャリアや経験がものを言います。この体調、この環境の下でこのトレーニングまでは大丈夫だったとか、またトレーニングに対し体がどのように反応し、それを予兆として察知したか(しなかったか)、さらにその後どのように対処したか(しなかったか)、その結果どうなったか、日々ランナーはこれらを経験しているのです。これらを書きためた練習日誌は、類似の事態が起こった時の羅針盤となり得るのです。練習日誌はこのためにあると言っても過言ではありません。

病院に行っても、骨折とか腱や筋肉の損傷などよほど大きな身体的ダメージがない限り、トレーニングを控え、痛みが消えてからトレーニングを再開するようにとしか言ってくれません。まずはランニングを中断し、原因(路面状況、シューズ、、フォーム、トレーニング量や疲労等)を探り、対策を施したうえで、痛みが消えたなら軽いランニングから入りますが、痛みが増すようであれば、ランニングを中止し、回復期間を取ります。痛みが増えないなら、心肺機能や筋力を維持(増強ではありません)できる程度の軽いランニングをしばらく継続し、回復の程度を確認しながら、元のランニング強度に徐々に戻していきます。これが安全サイドに立った基本であることは間違いありません。

大きく一線を踏み越えた場合はすぐに自覚できるでしょう。ランナーが一番知りたいのは、一線の近くに立った時、コツコツ高めてきた身体機能の急激な低下を招くトレーニングの完全中断ではなく、「身体機能の低下は最小あわよくば現状維持しながら回復を果たす」にはどうすれば良いかということです。トレーニング継続により症状が悪化するというひとつ間違えると大事に至るこのリスクを低減してくれるのは、様々な経験から手に入れた羅針盤なのです。

ランニングを始めて早10年以上となった最近では、大きな故障がめっきり減りました。トレーニング強度と時間のバランスを考えるトレーニングスタイルに改めた成果であったり、経験から予兆察知能力が少しだけ高まったのかもしれません。これからも、付きものの故障とは上手に付き合いながら充実したランニングライフを送りたいものです。