札幌天文同好会会報 No.137 2001年 夏号
2001年度総会にて
前列左から生田・後藤・上西
中列左から柴田・中山・鈴木・越後・北村
後列左から西野・石塚・大畑
札幌天文同好会 Sapporo Astronomy Club
編集者注
先に発行した「PLEIADES」は、編集作業において数式が誤変換(主に指数)されていました。
ここで表されている数式が正しいものです。
訂正してお詫びいたします。
1.ずれている日本の位置
天体観測において、観測場所の詳しい位置が必要なことはいうまでもないが、掩蔽観測者がよく
承知しているとおり、日本の地図に示されている経度※1と緯度※2は世界的な測地系と整合がとれ
ていない。しかし、幸いなことに日本は島国、天体の位置観測などを除くと、隣国の経緯度との間に
差があっても最近まで殆ど支障はなかった。ところが1990年代になってGPSが導入されると状況は
一変し、世界測地系と整合が取れていない日本測地系のずれは、放置できないものとなった。
2.測地原点
日本の経緯度と標高の基準となる測地原点は東京にあって、経度と緯度の基準である経緯度原
点(写真1)が港区麻布台2丁目の旧東京大学天文学教室跡に、東京湾平均海面からの高さを示す
水準原点(写真2)が千代田区永田町1丁目国会前庭園内、旧日本陸軍陸地測量部跡にあり、経緯
度原点の位置は東経139度44分40.5020秒、北緯35度39分17.5148秒、水準原点の標高は24.4140m
(設置当初の値は24.5000m)となっている。水準原点の標高24.4140mは関東大震災後に修正された
値であるが、経緯度原点に示されている経度・緯度は設置時の値であり、原点を示す金属標のある
碑は震災で当初の位置から南微東に約1mずれている。経緯度原点とは別に一等三角点東京が原
点の傍にある。また経緯度原点から真北方向を知る原方位としては、経緯度原点に近い旧東京天
文台子午環の中心跡から見た千葉県鹿野山一等三角点の方位を156度25分28.442秒(震災後の
値)と決めている。なお、理科年表にある基準点は旧東京大学天文学教室にあった大子午儀の中
心位置で、東経139度44分40.90秒、北緯35度39分16.0秒である。 経緯度原点の位置は天文測量
によって決定する。経度は同一天体が既知点と求める点との子午線通過時刻の差から、または同
時に観測した地方時の差から求め、天文緯度※3は恒星が子午線を通過するときの高度から求め
る。測地原点の経度と緯度が決まると、日本周辺の曲面に合った地球回転楕円体※4を選択し、三
角測量と水準測量の網を広げて行って三角点の経緯度と標高を決め、それを基に地図が作られる。
三角点は辺長約45kmの一等三角点(本点)から辺長約1.5kmの四等三角点まであって、全国をカバ
ーしている。また全国の15ヶ所に基線を設けて2点間の正確な距離を実測している。
写真1 経緯度原点右側の碑の中心にある丸い盤に刻んだ + の中心が原点
写真2 水準原点の標庫標高24.4140mの位置は中にある水晶柱に刻まれている
(2001年1月19日撮影)
3.鉛直線偏差
基準点の天体測量で問題となるのは、観測者の天頂を通る鉛直線が、観測者を通り地球回転楕
円体の表面に垂直な直線(法線)と一致しているかどうかである。ご承知のとおり日本はアジア大陸
と太平洋の境に位置しており、日本列島の北西には質量が多い大陸が、南東には質量が少ない深
度8000mの日本海溝や平均深度4200mの太平洋が広がっている。ということは、日本での鉛直線は
下端が質量の大きい北西の方に向くため、鉛直線は回転楕円体の法線とずれることになる。ジオイ
ド※5の天頂方向(鉛直線の天頂方向)と回転楕円体表面の法線の差を鉛直線偏差といい、測地原
点付近でのずれは南北方向が南に約10秒角、東西方向が東にに約10秒角となっている。 日本
で、東京麻布の旧東京天文台の位置を決めるための観測を行ったのは1800年代の終わりから
1900年代の初期にかけてであり、鉛直線偏差のことは知らない時代であった。その後、東京の原点
を基準とした三角網が朝鮮半島にまで広がり、1932年(昭和7年)に満州国を独立させた日本が長春
(当時の新京)に基準点を設けて測量を開始し、その三角網が朝鮮との国境の鴨緑江と豆満江に達
したとき、東京原点の三角網と長春原点の三角網に大きな差があることを知り、関係者は愕然とした。
長春原点による値から東京原点による値を引いた差は、経度が−17.0秒、緯度が+9.4秒と無視で
きない大きさであった。長春原点の経緯度が正しいとすると、東京原点の位置は南へ約300m、東へ
約400mずれていることになるが、それぞれの測量結果と計算に誤りはなく、当時はその原因が分
からないまま、国境が大河であったのを幸いに、ずれは適当に処理された。
4.掩蔽観測と礼文島金環食
その後、日本での掩蔽観測の結果が、ヨーロッパの観測結果とずれていて信頼できないと指摘さ
れることがあった。後に台長になられた東京天文台の広瀬秀雄氏が日本と外国の観測結果を比較
検討した結果、日本の経緯度で求めた月の位置が実際の月の位置とずれていることが分かり、日
本の経緯度原点の位置は、北緯で+10秒、東経で−10〜15秒補正する必要があるとの結論に達
した。その後1948年に礼文島を通る金環食があり、食分0.9996、中心食の幅が1000m程しかない
日食で、観測隊の位置決定が大きな問題となったが、東京天文台が求めた経緯度の差で補正した
位置に陣取った日米の観測隊はベイリー・ビーズが輝く太陽を見事に捉え、観測は成功した。
5.新しくなる日本地図
地図の狂いはこれ以外にもあり、経緯度原点の位置が正しいとしても、現在の地図は札幌が西へ
9m、福岡は南へ4mずれているという。この原因は、その後の地殻変動と、日本が測量法第11条で
採用を決めているベッセルの回転楕円体(赤道半径6377.397155km、極半径6356.078963km、編率
1/299.1528)が日本周辺の曲面と一致していないためで、このことは早くから指摘されていた。
このようなことから、国土地理院では日本測地系の不整合を修正するため大規模な作業を進めて
おり、日本列島の位置は、今よりも大凡450m北西方向に移動することになった。 なお、現在天
文関係で採用している回転楕円体はIAU楕円体(1976)で、赤道半径が6378.140km、極半径が
6356.755km、偏率1/298.257、子午線1象限(赤道から極まで)の距離が10001.970kmである。
6.陸地測量部から国土地理院まで
日本の近代的な地図測量は1871年(明治4年)にイギリス人技師の指導を受け内務省で始まっ
たが、陸軍も地図の重要性を認識しており、1878年に陸軍の参謀局が参謀本部になったとき、
陸地測量部の前身である地図課と測量課が誕生した。陸軍の測量は当初フランス式であったが、
1982年にドイツに3年間留学して測地技術を習得した田坂大尉が帰国したことにより、測量はドイ
ツ式に変わった。地球回転楕円体もドイツのベッセル(F. W. Bessel、1784−1846年)が1841年に
決めたものを採用することになったが、当時の情勢から見て必然的な結果である。1884年から国
の測地事業は陸軍測量局が行うことになり、測量局は1888年に参謀本部直属の陸地測量部に
昇格し、太平洋戦争終了時まで存続した。戦後、陸地測量部は地理調査所となり内務省に属した
が、1948年(昭和23年)建設省の付属機関となり、1960年(昭和35年)7月に国土地理院と改称し
現在に続いている。
7.回転楕円体の性質
次に、回転楕円体の性質を示すので、興味のある方は楕円体による違いを計算してみるとよい。
長軸の半径(赤道半径)を a 、短軸の半径(極半径)を b 、地理緯度※3をφとすると
・扁平率 f= (a−b)/a
・離心率 e= { ( a2−b2 )/a2 }1/2
・子午線方向の曲率半径 Rn=a/W
W=(1−e2・sin2φ)1/2
・卯酉線※6(ぼうゆうせん)方向の曲率半径
Rm=a(1−e2)/W3
・任意の方向(北基準の方位、α)の曲率半径Rα=Rm・Rn/(Rm・sin2α+Rn・cos2α)
・αを0°から180°変化させたときの平均曲率半径(中等曲率半径という)r=(Rm・Rn)1/2 = b/W2
・緯度φ1からφ2 までの子午線孤長B=a・(1−e2){ A・(φ2−φ1)−B/2・(sin2φ2−sin2φ1 ) +
C/4・(sin4φ2−sin4φ1 ) −D/6・(sin6φ2−sin6φ1 ) }
A=1.005037306049
B=5.047849240×10−3
C=1.0563787×10−5
D=2.0633×10−8
・緯度φにおける経度λからλ2 までの平行圏孤長(同一緯度上の孤長) L=Rn・cosφ・(λ2−λ1)rad
・任意の2点間の方位角と距離(D<200km)
西側の地点の経度をλw、緯度をφw、東側の地点の経度をλe、緯度をφe とし、西側の地点から
東側の地点を見た方位角をAw-e、東側の地 点から西側の地点を見た方位角をAe-w、2点間の距離
をDとする。経度は東経を正とする。
φp=(φw+φe)/2
φm=(φw−φe)/2
刄ノ=λe−λw 緯度中間地点における子午線方向の曲率半径
Rn= a/W
W=(1−e2・sin2φp)1/2
緯度中間地点における卯酉線方向の曲率半径
Rm=a(1−e2)/ W3
K=Rm/Rn=(1−e2)/W2
(A+B)/2=tan−1{ cos(K・φm)/(sinφp・tan(刄ノ/2))}
(A−B)/2=tan−1{ sin(K・φm)/(cosφp・tan(刄ノ/2))}
西側の地点から東側の地点を見た方位角
Aw-e=(A+B)/2+(A−B)/2
東側の地点から西側の地点を見た方位角
Ae-w=360°−(A+B)/2+(A−B)/2
2点間の距離
D=π・Rn/ 90・〈tan−1[{sin((A+B)/ 2)・tan(K・φm)}/sin((A−B)/2)]〉°
距離を求める式の〈〉内のarctangentは度単位で求める。
・2地点の緯度が完全に等しいとき、A−B=0となって計算不能にとなる。別式あり。
・子午線方向の曲率半径と卯酉線方向の曲率半径の比Kを使う計算法は筆者が考案したもので、
誤差は距離200km未満で方位角が0.2″以内、距離が0.1mm以内と思われる。
※1 旧グリニジ天文台の子午環中心跡を通る子午面と、任意の地点を通る子午面が赤道または極
で挟む角。
※2 任意の地点を通り、地球回転楕円体の表面に垂直な直線が赤道面となす角。地理緯度。
※3 任意の地点を通り、ジオイド※5に垂直な直線 が赤道面となす角。
※4 地球の形と最もよく一致する回転楕円体(子午線の形が楕円形の回転体)。
※5 地球の重力が同じになる点がつくる面のうち大洋の平均海面と一致する面。
※6 任意の地点を通り、子午線と直交する東西の線。天球上では、天頂で子午線と直交する大円。
2001年3月25日から4月1日まで、『フインランド オーロラ紀行 8日間』 に行ってきたので
報告いたします。
【日程】
観光:フインランド首都 ヘルシンキ、ロバニエミ 3月25、26、28日
観測:ロバニエミ(北極圏 北緯66度) 3月28日
観測:サリーセルカ(北極圏 北緯69.5度)3月29、30、31日
【フインランドとはどんな国】
国土:日本の85%(1/3が北極圏内)
人口:約560万人(内50万人はヘルシンキ)
北海道の人口とほぼ同じ。 人種:ウラルアルタイ語系、フィン族が移動、 史上バイキングで有名
サーミ族(原住民)美女、美男多い。
言語:フインランド語だが、スエーデン語も公用語になっている。
地勢:ほとんどが平地で、森と湖の国。約8万個の 湖沼がある。 歴史:強隣国に支配された歴史永い。
18〜19世紀はロシア、13〜19世紀はスエーデンに支配されたが1917年独立。
1904年日露戦争の英雄、海軍元帥東郷平八郎が有名。ビールが特産。
国民性:素朴、堅実、シャイな性格、スポーッ盛ん 産業:漁業・林業、近代工業(携帯電話Nokia)
福祉:高福祉国家(高福祉高負担)、消費税22%、所得税20% 宗教:清教徒が多い。
他にロシア聖教、ローマカトリック
【観光案内】 デジカメ・スライド 観光 約30枚 オーロラ 3枚
【オーロラ】
観測可能な4夜中3夜(27、28、29日)観測・撮影することが出来ました。撮影の条件・環境は次の通りです。
1.撮影機材
(1)撮影ビデオカメラ 2式 SONY TR-3000 、VX1000。何れも高感度改修(通常の100〜500倍)を
施したものです。零下10〜20℃の気温が予想され正常に動作するかどうか心配しておりましたが、
実際の気温は零下5〜10℃であり、期待していた性能を発揮することが出来ました。
(2)電池 ビデオカメラ リチュウムイオン型液晶モニターニッケル水素型ライトニッケル水素型
何れも保管中は保温ケース(桐灰懐炉2個入り)に収納して保温しました。零下5〜10℃で常温の
1/2程度の容量を得ることが出来ました。
(3)液晶モニター(3型) 低温下の動作に不安があったが、表示機能・画質等の劣化はほとんど認め
られませんでした。
(4)三脚 トータル重量の関係から軽量のものを持参したが、低温下ではバランスが悪く、少し無理を
しても大型のものを持参すべきでした。
2.防寒具 防寒具(防寒着、靴、手袋等)はすべて持参しました。防寒着は羽毛入りのものを使用し
ましたが、裏地には汗が結露し水滴となり付着しました。裏地には吸湿性の高い材質のものが必要
です。人体保温用としてホッカイロを下着のポケットに2個入れましたが有効でした。
3.高感度改修ビデオカメラ 写真はオーロラ撮影用に高感度改修したビデオカメラです。
レンズ・CCD・シャッタースピードを改造した SONY TR-3000
フィンランドのロバニミエとサリーセルカ
次出、ノルウエーのトロムソも示す
首都ヘルシンキ 町並み
早朝マーケット(ヘルシンキ)
オーロラ (3月29日、サリーセルカ)
オーロラ(3月29日、サリーセルカ)
天空100度に広がった「カーテン状オーロラ」 (3枚画像接続) 3月29日、サリーセルカ
現地時間3月6日夜中の12時30分、トロムソ空港に着きました。北緯70゜のトロムソはチラ雪が降って
いましたが、外気は札幌と同じくらいで、積雪は少ないと思いました。スカンデックホテルに着くと玄関
前に、日本人の観光客が数人、空を見上げては恨めしそうにしています。翌日、晴れる事を祈ってベ
ッドに入りました。
翌、7日は日中、観光の日でしたが昨夜からの雪が一層強く降っていました。ガイドさんの話ではトロ
ムソは人口5〜6万人。いくつかの島で結ばれています。ノルウェー独特のフィヨルドの地形で、山と海
が美しい町です。良い大学(トロムソ大学)と文化施設が整っているので若者に人気があり、人口流出
が少ないとの事でした。5月21日〜7月21日まで白夜。11月20日〜1月20日は夜が続きます。そのせい
か、どの住宅の窓にもカーテンを可愛らしく飾りつけ、小型のペンダントライトや飾り物を下げ、2,3鉢の
花を置いて目を楽しませてくれました。スーパーでもロウソクの種類が多くありました。電気代も安く暖房
など全て電化され、ガスは使われていないとの事でした。
観光センターで「北極圏到達記念証」を35クローネ(約500円)で書いてもらいました。トロムソ博物館
では北方民族、サーメ人の生活、有名なアムンゼンの展示もありました。ここの人達にとってオーロラ
は日常の事なのか、お土産などオーロラに関する物はほとんどありませんでした。
トロムソの街並み
お年寄りが「そり」の足の乗ってスーパーに買い物にきていました
この日も夜は雪が降ったり、止んだりと雲の流れが速く、風の吹く寒い中、オーロラが現れないかと、
ロビーで暖をとりながら待ちましたが、現われませんでした。でも、雲の切れ間に北斗七星と北極星が
首が痛くなるほどの高さに確認できました。夜間飛行でノルウェーに入ってから気付いた事は、ナトリウ
ム灯のオレンジの灯りが明るく、眼下の夜景がとてもきれいなのです。案の定、ホテルの回りやトロム
ソの街の街灯もオレンジに明るく輝いているので照明が目に入ります。写真を撮る人には特に条件が
悪かったと思います。
ホテル前から見た朝焼け
最終日3月8日、明方、ホテルから外で見ると雪はやんで、美しい月が見えました。その後に朝日が
遠くの山に照って素晴しい景色が眺められました。日中は晴天。しかし、夕方から薄雲が全天にかか
ってしまいました。おまけに月明りが強く、月の輪もホテルの半分くらいにかかり、その大きさに驚きま
した。
オーロラを観たホテル前の風景
「今夜こそ!」と皆で期待しました。トロムソは早い時間にオーロラが現れるとのこと。
午後7時半すぎ夕食をとっていると、「観える!」との声。外に飛び出すと30゜くらいの高さに雲の中に小
さくボンヤリとモヤモヤと動くオーロラが3回くらい現れました。それからすぐ防寒服を着込んで外で待つ
事3時間。午後11時すぎにホテルの屋上をまたいで天を半周するはっきりしたオーロラが現れました。
オーロラは、長く少し白っぽくユラユラと動き、3回ほど形を変えました。でも、それで消えてしまいました。
興奮状態で見たせいか消えてしまうと、ちっとも目の奥に焼きつけられていないのです。余り思い出せ
ないのです。「観えた!でもこれで終わってしまうの!もっと観たいよー!!」 その後、ずっと待っても
現れませんでした。今夜だけなのに...。観られなくて帰国した人もいるのだから、と我が身をいくら
慰めてもやっぱり観たりません。
9日の朝、後ろ髪を引かれる思いでトロムソを発ってコペンハーゲンへ。コペンは雪が有名な人魚姫
の像の向う側には工場の煙突が。世界3大がっかりの1つとか(?)少し納得。
10日、夕方コペンハーゲンを発ちました。運良く左側の窓側の席になり、まもなく夜になりました。
機内の照明の明かりで外がとても見にくかったのですが、最後のチャンスと目をこらして見ていると私の
祈りに答えるように、遠く飛行機の後方から前方に細長いオーロラが2回現れました。願いが叶いました。
大きなオーロラは観られなかったけど、私は少し満足して帰る事が出来ました。 帰国後、同じツアーの
方からオーロラの写真が送られてきました。証拠が届いたのです。
届けられた証拠写真
「私のオーロラ!」と少し自慢出来そうです。
・・・・がチャンスがあったらもう一度、観に行きたいと思います。
恒例の北海道流星観測者会「定山渓冬の陣」が1月20-21日に開催されました。 参加者は16人
で発表件数は11件。この他、フリーのテーマ2件、フリーマーケット、スポッティングスコー
プによる惑星観望など、酒を飲み温泉に浸かって、冬の夜長を星の話で語り明かしました。
以下に発表を簡単に紹介します。敬称は略させていただきます。
○池端:ホームセンターで売っている材料で、電子シャッターカメラ(ペンタのMZなど)のコマンドバック
を製作。2万円以内の低価格で、簡単に作られます。
池端さん
○児玉:2000年のしし群・ふたご群の眼視やビデオによる観測結果について。
児玉さん
○柴田:FM電波観測の結果を交えて、2000年のしし座流星群についてのレビュー、および2001年へ
の期待について。
○鈴木(智):流星痕用低価格分光器の製作とスペクトル観測の可能性について。数万円でシステム
が作られて、高度な観測が出来ることに注目が集まりました。
鈴木(智)さん
○大高:長焦点長時間露光による天体写真。今回の圧巻は、7時間20分露出したM101。日本で最も
長い露出時間ではないでしょうか。雑誌の印刷では表現できない、素晴らしいスライドショーでした。
大高さん
○殿村:アラスカでのオーロラ観測。フジの400や800は赤が良く写る。1600は写らない。リバーサルは、
見た目に近く写るとのこと。カーテン状オーロラが近づいてきて来て、真上に来る様子は素晴らしかった。
殿村さん
○生田:高感度化に拍車がかかっているCCDの話など、ビデオカメラの高感度化について。 先に柴田
が上映した「しし座流星群」ビデオは生田さんが改造した、最微等級が5等級のビクセン BO5での撮影。
生田さん
○牛渡:米軍が放出した材料から、Paul Riniが再組み立てして製作しているアイピースの紹介。性能
評価はしていないが、価格以上に良く見えるらしい。現物を手にとって確認。
牛渡さん
○笹野:昨年、幌加内で観測に成功したZC650のグレージング。ビデオでは、GPS時計のフラッシュ
と星の明滅が良く分かりました。
笹野さん
○佐野:超新星爆発の謎に迫る「CCDによる超新星多色測光システム」の紹介。貴方もやってみませんか。
新しい発見の可能性がありますよ。
佐野さん
初参加の小島さん
○殿村:ルーマニアで開かれた国際流星会議「IMO2000」について。ルーマニアの文化や会議のあ
とでアッシャーさんとダンスをしたなど、肩の凝らない面白い話。
○フリーのテーマ 望遠鏡の取り扱いについて(西野):女性が集まっていました。
○HROデモ(柴田):池端さんは、HROFFTでFM観測を始める事にしました。
○自己紹介:主にお仕事を中心にして紹介していただきました。
○フリーマーケット:(出品者:牛渡・児玉・殿村・柴田)お値打ち品ばかりで完売しました。
手前は家族4人で参加の大畑さん
●来年は教職の方が参加しやすいように、1月第4週(2002年1月26-27日)とします。
ぜひ、予定に組み込んでおいて下さい。
第5回までの様子は、下記URLにありますのでご覧下さい。
http://www2.snowman.ne.jp/~ikuta/jozankei/home.html
はじめに
月や惑星の撮影にはデジタルカメラ(以下デジカメ)がよく写るというのは常識になっています。 その例
として「PLEIADES」NO.131において月面写真を紹介しました。 昨年、さそり座デルタ星が増光して話
題になったので、同じデジカメで撮影したところ、想像したより暗い星が写っていました。札幌へ帰って来
たのを機会に、古潭観測所で暗い天体に挑戦してみましたが、やはりよく写っていました。
始めたばかりですが、デジカメによる星雲など暗い天体の撮影と画像処理について紹介いたします。
1.必要な機材
使用したカメラは以下のとおりです。 CAMEDIA C−2020 ZOOM (オリンパス) 1/2インチCCD
211万画素 F=2〜2.8 f=6.5〜19.5mm シャッター=最長16(秒) 望遠鏡は、20cmF4反射と赤道儀
(ビクセンR200SSとGPD赤道儀) 主な機材はこの二つの光学機器です。このほかに必要な機材は
以下のとおりです。 @接眼レンズ:写真フイルムで星雲星団を撮影する場合、一眼レフカメラのレンズを
外して、対物レンズが作った星像をフイルムに写し込むのが一般的です。これに対してデジカメ法は、望
遠鏡に接眼レンズを付けて覗くことが出来る状態にしておきます。次にカメラをアイピースに押し当ててシ
ャッターを切ります。これをコリメート法と言います。 接眼レンズは、見かけ視界が広くアイポイントが長く
ないと、周囲がケラレて撮影できる範囲が狭くなってしまいます。デジタルカメラに使用するこの種の接眼
レンズとしては、ビクセンのLVシリーズがスタンダードになっていて、見かけ視界は45-50ー、アイポイントは
20mmです。私はペンタックスのXLシリーズを使っていますが、こちらの方がシャープに写ります。28mmを
除き見かけ視界は65ーアイポイントは20mmです。 さて、カメラを接眼鏡に近づける時、対物レンズと接眼レ
ンズの中心を結んだ軸とカメラレンズの作る軸が一致しなければ、像が歪んだりピントがボケてしまいます。
このため、デジカメを固定し、接眼レンズと光軸を合わせる装置が必要になります。これが、「デジカメアダ
プター」です。 Aデジカメアダプター:ミードが売り出した3本のビスを使って接眼レンズにデジカメを固定する
方式が第一世代のアダプターです。最近は、接眼レンズにねじを切ったアダプターをねじ込み、このアダプタ
ーにデジカメを固定する方式が発売されています。代表格が誠報社から発売されたXL接眼鏡のアダプターで
す。XLにはゴムの見口がつ いていますが、これを外して円筒形のアダプターをねじ込みます。さらに、デジカ
メメーカーから発売されている専用のアダプターでデジカメにねじ込みます。 第一世代の製品は構造が複雑
なため一万円くらいしていましたが、最近の製品は半額程度です。
第1図 上:ゴムの見口をつけたままのXL7mm
下:見口を外したXL5.2mm デジカメアダプター カメラのコンバーションアダプター
2.撮影の実際
(1)最初に、予めカメラのセットをしておきます。 @カメラモード手動(シャッタースピード16秒、絞りF2、
ピント手動)Aズーム(適当倍率でよいがケラれないこと)Bリモコン使用Cフラッシュ不使用DASA感
度自動→400Eホワイトバランス晴れマークF記録ファイル形式JPEGG記録ファイル(低圧縮)H液晶
画面を明るく設定I日付と時刻を確認
第2図 屈折望遠鏡に取り付けたデジカメ
次に月や適当な明るさの恒星を入れ、第2図のようにカメラを望遠鏡に接続します。カメラの液晶画
面でピントを合わせます。この時、恒星が明るすぎると甘くなります。また、液晶画面は小さいので恒
星でピントを合わせる場合は、カメラのビデオ端子から映像を引き出しテレビでピントを合わせていま
す。この方法は、テレビの映像を調整して、「明るく、高コントラスト」にしておけば、画像処理後のイメ
ージをこの段階で確認することが出来て便利です。 (2)慎重にデジカメを接眼レンズごと外し、別の接
眼レンズを取り付けて目的の天体を導入します。この時ピントは調整しません(デジカメについている
接眼レンズと同じシリーズであると、大凡ピントは合います)。接眼レンズの挿入位置がピント合わせの
時と同じになるように、十分に注意してデジカメに交換します。 (3)振動防止のためリモコンを使ってシャ
ッターを切ります。最初の1枚は、画像処理でノイズを消すために鏡筒に蓋をして16秒間露出します。2
枚目からは蓋を外して撮影します。同じく16秒です。この状態でコンポジットしたい枚数を撮影します。た
だし、撮影の間隔をあけています。連続して撮影するとCCDの熱ノイズが増加するためです。インターバ
ルは周囲温度10℃で、1分〜3分くらいでしょうか?液晶モニターはランプが熱を出しますので極力、点け
ない方がいいと思います。目的の枚数を撮影したら、モニターで写りを確認して次の天体へ移ります。
3.画像処理
(1)一番楽しくて、一番時間がかかる作業です。時間はPCの能力で決まります。出来るだけ早いPCが
良いのですが、遅い場合は解像度を下げて、試し焼き?をしてから本番に臨みます。ただし、ウイナー
フィルター処理はピクセル単位で指定するので解像度が変わると条件も変わります。
(2)まず、デジカメからPCへ画像を取り込みます。コンポジットするためのコマとダークフレームのコマ
1枚を決めます。
(3)画像処理ソフト「ステライメージ2」を開きます。仮に4枚をコンポジットする場合は、1枚目の写真を
選択しておいてダークフラット補正をプルダウンメニューから選択します。ファイル名を指定して「OK」
を実行すれば、定常的に発生しているノイズが引き算されます。同じように3枚を処理します。
第3図 ダークフレームにある処理前のノイズ (モノクロにして反転)
写真には星とこのノイズが同時に写し込まれている
(4)4枚のダーク補正が終了したら、レベル調整をして暗い画像を明るくします。調整値は、4枚とも同
じ値にします。
第4-1図 レベル調整前(モノクロにして反転)
第4-2図 レベル調整後(モノクロにして反転)
(5)プルダウンメニューからコンポジットを選択し、相手ファイル名を指定します。淡い星雲などには加算
を、粒子の荒れを防いで画質向上の場合は加算平均を指定します。また、「移動」のボタンで画像をぴ
ったり重ねます。
(6)ピントを出すウイナーフィルターをかけます。 半径とガンマを指定しますが、この値が難しく試行錯誤
でやっていますが、かけすぎないのがコツです。自動レベル調整にチェックをいれ「OK」をクリックします。
(7)再度、好みに合わせてレベル調整を行います。
(8)画像処理ソフト「フォトショップ」を開いて、画像を読み込みダーク補正では消えていない微少ノイズを
丹念に消します。(ステライメージ2に、この機能はないようです)
(9)目的に応じたファイルの大きさにするため、解像度を調整します。
(10)ファイルに保存して終了です。
4.これから期待するもの
これまでは、ここに掲載した写真しか写していませんので、銀河の腕やHαの赤い光がどの程度写せる
か試してみたいと思います。とくにコンポジットで暗い星雲がどれだけ出るでしょうか。
良い写真が出来ましたら、本誌冬号の表紙を飾りたいものです。
5.デジカメ天体写真の薦め
デジカメで良い天体写真が撮れますが、星雲星団を撮影したのは見た記憶がありません。暗い天体
撮影には冷却CCDが極めて有効であるため、本格的に撮影を考える人は、冷却CCDへ移行するの
でしょう。 しかし、私がデジカメを推薦するのは『撮影の容易性』にあります。初めて天体写真を写す
ような簡単な方法ですから、誰でも撮影することが出来ます。幸いなことにCCDはフイルムと比較して
相反不規がないため高感度です。反面、露出時間を長くとれない欠点がありますが、望遠鏡の極軸設
定が「適当」で十分です。このようにデジカメでの星雲星団の撮影は初心者向きなのです。一方、デジ
カメは天体写真ばかりでなくあらゆる場面に活用できます。価格も300万画素を越えるものでも7万円く
らい買えるようになりました。 私の場合はこだわりがあってペンタックスのXL接眼レンズを使っていま
すが、ビクセンのLVシリーズとアダプターは1万5千円程度とたいへん安価です。望遠鏡やデジカメを
持っている方はぜひ挑戦してみてください。
ここまで書いた翌日「星ナビ」7月号を開いてみると同じような記事が載っていました。とくに、125ページ
の近藤さんの記事とそっくりなのには驚きました。また、新発売のニコンのクールピクス995の紹介が
あります。天体用として定評のあるニコンのデジカメですが、ダークフレーム処理をデジカメの中で行う
ノイズリダクション機能を有し、感度はISO 800と高感度で、60秒までのバルブが出来ます。価格は113
千円と少し高いですが、素晴らしいカメラが発売になりました。デジカメは今後ますます発展していき
そうで、楽しみです。
第5図 リング状星雲 M57
16秒 4枚平均加算(モノクロにして反転)
第6図 ヘルクレス座の球状星団 M13
16秒 4枚加算(モノクロにして反転)
札幌天文同好会は7月7日をもって、創立から45年を迎えました。マンネリと騒いだ時代もありますが、
今では「定着」という言葉が適切でしょう。私はこの間、諸先輩のご指導のもと、大いに薫陶を受けた一
人です。サークルとは人と人とが交わる場ですが、創立時から見ると、信じられない情報化社会になり、
「夢」と思われたことが個人的に実現しています。IT時代のサークル活動とは何でしょうか。創立50周年
を目指して考えていくテーマではないでしょうか。
ところで、半年ぶりの発行となった「プレアデス」ですが如何でしょうか。プリンターの価格が低下した上
に印刷スピードが速くなったので、思い切ってカラーにしました。問題はランニングコストです。インクジェ
ットプリンターは設備投資としては安価なので、後日、カラーレーザーに変更しても損はないはずです。
読まれた方の感想をいただければ幸いです。
さて、私こと。PCをペンティアムV850MHzに変えました。メモリーも増設し、32メガの本誌ファイルも
ストレスなく編集できます。ページが増えても大丈夫です。どしどし投稿をお願いします。一方、古潭観測
所の赤道儀をアトラスクにしました。暗い天体を自動導入するためです。CCDには及ばないものの、デ
ジカメで写真を撮影しようと考えています。自動導入の精度は、100倍で概ね視野に入ってきますし、
基準星が近くにある場合は一発です。この場合は、見えない暗い天体の写真撮影が可能です。
次回の発行は、来年一月元旦を予定しています。しし座流星群の観測速報をお寄せ下さい。
柴田 健一