12.モニュメントバレーへ

 子供時代の夢は、モニュメントバレーに代表されるアメリカ大陸を、車で縦断することだった。しかし、国立公園巡りのルートからは少々離れているため、一度は次の機会にと諦めたのだが、容易に来られるところではない。次の機会も立ち寄るのは困難だろうと思い直し、決心した。

乾燥地帯のMarsh pass(マーシュ パス) 峠を越えると、赤い土饅頭のような小山がボコボコとある。後日、札幌天文同好会例会で聞くところによれば、映画「未知との遭遇」のオレゴン州にある国立公園に似ているが規模は小さい。アメリカ西部は似たような風景がけっこう多い。mesa(メサ)と呼ばれる岩石台地や、butte(ビュート)と呼ばれる孤立した岩山が見えだした。kayenta(ケイエンタ)の町を通過して10km行くと、緩やかな丘陵地帯の地平線に鋭く尖ったAGATHLA PEAKが聳えている。さらに5分走ると、異様な形のmesa やbutte が次々と現れる。大平原なので、10km以上離れたところからでも良く見える。

モニュメントバレーの入園料はクレジットカードが使えない。ここはナバホ族の公園で、アメリカの国立公園ではない。一人5ドルの現金を払って入場する。直ぐに、インディアンのバレードライブツアーの誘いが来た。記念写真のシャッターを押してもらったが、車によるツアーは断ってレンタカーで公園内のドライブ道路に入った。天候が良く乾いているので前方に車があると、埃がひどい。混んでいないのが幸いして、数分間の時間をおいて走ることができた。
真っ青な空を背景に聳え立つmesaとbutte群は、鉄とマンガンを多量に含み真っ赤だ。3億年前に出来て、あと数百万年で消滅する。これ以上のことは分からないのだが、溶岩ドームが地表から突きだしたように見え、少しずつ崩落していて、岩は砕かれ、砂になって広がっている。時々降る雨は砂を運び、やがて平らになる。時間は静かに流れているが、崩壊は確実に進行している。ドームの成長→崩壊→消滅という長い時間が作り出す雄大な景観には、「滅び行く大地」の悲しさが感じられる。
一方、北海道の樽前山にもドームはある。100年も経っていないし、あと100年もしない間に大噴火で吹っ飛ぶだろう。しかし、活発に噴煙を上げている姿は力強く若々しい。樽前山が「やんちゃ坊主」なら、ここは「仙人が住む谷」である。アメリカ大陸のど真ん中という大きさ、人類にとって久遠ともいえるような時間の流れにある一瞬の光景は、最も感動したアメリカの風景であった。
 AGATHLA PEAK モニュメントバレーが右端に小さく見える
 
  
ハイウエー163号から見たモニュメントバレー
 
  日没直後、Artist's Pointから望むモニュメントバレー
   Merrick(正面)とCastle など(右)のButte群

13.ブライスキャニオン国立公園への道でアクシデント

 アリゾナ州からユタ州に入り、目的地まであと80kmのMount Carmelという小さな町を通過した。速度制限が50マイル(80km)に変わると、前の車は一気に加速して見えなくなった。天気は良いし車も少ない。目的地まで少しだ、急ぐこともないと運転していた。突然、丸い目の鹿の横顔がフロントガラスに現れた。「あっ!」と叫んでブレーキを踏んだが、間に合うとは思わなかった。ガラスにはヒビが入り真っ白。一部は割れて車内に飛び散った。少しだが、破片が刺さり手から血も出た。この他の被害は、左側の天井・ドアミラー・フェンダー・前ドア・後ろドア・後ろドアガラスが破損し、車は中破。前が見えないから走行不能となった。鹿を轢いたと言うより、鹿が車のドアミラーを目がけて突進して来たのだ。牡鹿は、ほぼ即死状態。直ぐ2台の車が止まって、ユタ州のハイウエイパトロールと、ガソリンスタンドからレッカーを呼んでくれた。シェリフから事故証明の番号をもらって、ブライスキャニオン国立公園までレッカー車の助手席に乗って移動した。ここは、自然破壊を防止するため公共の交通機関はない。ただし、唯一の機関は揺れて怖い小型飛行機がラスベガスから飛んでいるだけだ。こうなったら無事に帰られるだけでありがたい、と覚悟を決めた。ホテルに着いてから電話での馴れない英語には参ったが、専属?の日本人スタッフが間に入って通訳している間に、ハーツレンタカーが向こうからやってきた。ザイオンにある、現地営業所が第一報を聞いて素早く行動してくれたのである。保険に加入しておいたが、時間がかかるし、面倒になると思い234ドル払ってレッカーして良かった。営業所へ行って、事故証明を書かなければならなかったが、証明書には事故の状況の記載が必要であった。片言の英語しか話せないのに書けるはずがない。車に体当たりしてきた牡鹿の絵を描いたが、猫のようにしか見えない。で、頭に角を書いたら急に鹿らしくなったので提出。アクシデント発生の4時間半後には新しいレンタカー「CAMRY」に交換していただき一件落着。この日お世話になったフレンドリーで、仕事熱心なアメリカ合衆国ユタ州の人達にとお礼を言いたい。心から「thank you」と。翌日の帰り道、同じ場所の反対車線で別の鹿が轢かれていた。昨日、助けてくれた人も言っていたが、良くあることらしい。
 
 牡鹿は手前から向こうへ向かって突進した。
後ろは、ユタ州ハイウエーパトロールカー。 ドアに「SHERIFF」のロゴ。 
 

14.ブライスキャニオン国立公園

 4-5千万年前は巨大な湖で、石灰岩を含む泥が堆積し、およそ1千万年前からColorado Plateau(コロラド プラトー)と呼ばれる台地が隆起したのが、ブライスキャニオン国立公園である。大陸の内部にあるこの一帯は雨が少ないが、時折降る大雨は草木がない大地を急速に削り取る。ここの地質は堆積した後、強い熱や圧力を受けていないため脆いのだろう。崖は低地に向かって水と氷により浸食を受け、Hoodoo(フードウー)と呼ばれる岩石尖塔を1000本以上作り出した。Hoodooは鉄分を含んでピンク色をしており、自然が作り出した芸術の傑作である。崖を上から見る光景は素晴らしいが、下ってトレイルを散策すると全く違った風景が見えて神秘的である。200万人/年の観光客が訪れる観光地であるが、オフシーズンのため、ゆっくり観察することができた。
  ブライスキャニオン国立公園 ブライスポイントビューから見る
 
 
  
 ブライスキャニオン国立公園 クイーンズガーデン トレイルにて
 

15.ザイオン国立公園

 ラスベガスに向かう途中16kmに亘り走ったのが、ザイオン国立公園。狭く曲がりくねった道路の運転は、細心の注意が必要だった。地質的にはブライスより古く、2億5千万年から5千万年前まで、1億8千万年にわたり浅い海に堆積した地層である。厚さ5,000mの堆積層がバージン川により削られている。砂丘時代、風の変化によりつけられた風紋に特徴がある崖もある。大雪山国立公園の層雲峡に似ているが、草木は少なく谷は深い。巨岩を見上げながら、川の中を歩いて楽しむトレッキングや釣りに人気があり、ガイドマップに13のトレイルが紹介されている。
  ザイオン国立公園 巨大な岩渓「The East Temple」2,350m
  
 
  ザイオン国立公園 風紋により作られたChecherboard mesa(チェッカーボード メサ) 
 
 
 

15.ラスベガス

 ここまで、アメリカ中西部国立公園「グランドサークル」の一部を周遊してきたが、その交通の要衝がラスベガスである。スロットルマシンがしたくて立ち寄ったのではないのだが、ホテルはカジノから入らなければチェックインが出来ないし、エレベーターの1階は、「C」カジノと表示されている。1階に降りようとして非常口から出たら、従業員玄関に出てしまった。怖いガードマンのお兄さんに呼び止められて、焼きが入った。アメリカの食事は、一般に大味であったが、ラスベガスで宿泊したホテルのビュッフェは安くて美味しかった。メニューの数が何百種類もある。1日3食、ここで食べたが、まだ食べたい料理が沢山あった。

 空港のチェックインカウンターでリコンファーム、レンタカー返却場所の確認などを1日かけて準備しておいたが、帰国日の朝はレンタカー返却納所へ真っ直ぐ行けなかったり、チェックインカウンターで言葉が通じなかったりで慌てた。空港ではアメリカウエスト社の「youko」さんという日本人にガイドをしていただき、ロス行きの飛行機に乗ることが出来た。
 
飛行機から再びアメリカの大地を眺めた。山も平地も灰色の大地には幾筋もの川のような模様が見える。時々降る雨が洪水になって流れたのだろう。雨が少ないのに、雨が大地を削っていく。日本列島とは全く違った「太陽系第3惑星地球」の進化だ。雨が多くても少なくても、地球は水の惑星なんだ!と感じた。
 ラスベガスとロスアンゼルス間の砂漠に刻まれた、水の流れた跡
       (横に走っているのは、道路?)
 

16.旅行を終えて

 前半は流星観測、後半はグランドサークルと呼ばれる、国立公園エリアを観光して、走行距離は2,300kmに及んだ。国立公園は、太陽系第3惑星に降り立って観測し?終始天体を観測をしてきたような12日間であった。しかし、事前調査が不十分で、帰国してから調べたことが多い。
誤っていればご教示いただきたい。
 
初めてのアメリカであったが、好意に満ちた多くのアメリカ人に触れ合うことが出来た。9.11テロ対策のため、ノートパソコンや靴の底まで厳しいチェックを受けたが楽しい旅であった。
いつか、アリゾナの大地で再び星を眺めてみたいと願っている。                
                    
ロスの空港で


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