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東亜天文学会「天界」2004年2月掲載
2002年しし座流星群の観測
日本流星研究会
柴田 健一
アッシャー・マックノートの予想に基づいて、アメリカ合衆国アリゾナ州ツーソンにおいて、
2002年のしし座流星群を観測したので、2001年北海道大樹町の観測と比較して報告する。
また、観測高度による流星数の変化について修正したので、その手法について述べる。
1. 観測場所
アリゾナ州ツーソンの南東、56kmのSANTA RITA MOUNTAINS
西経 110°44′37″、北緯 31°47′16″、標高 約1,273 m(4,200フィート)
2001年日本の観測地は、北海道大樹町晩成
東経143°28′26.4″、北緯42°33′11.8″、標高 10m
2. 観測目的と機器
(1)2001年と同一のビデオシステムを用いて流星物質のフラックスを比較する。
(1-1)北天星野(視野:対角63°)
WATEC製 N100+f=6mm F=0.8+FUJIX−FH101(注1)
(1-2) 輻射点RP(視野:対角49°)
VIXEN製 BO5 +f=6mm F=1.2+CANON−LX−1 (注2)
(2)一定の明るさ以上の流星フラックスを検出する。
MINOLTA α7000 プログラム(注3)
f=28mm F=1.8 SUPERIA 1600 90sec間隔で85sec露出
(3)永続痕のスペクトル撮影する。
SONY TR3000(注2)+グリズム(注4)
(4)流星雨の鑑賞。
肉眼による観望
3.観測結果
(1)同一ビデオシステムによるフラックス(5分間値で集計)
(1-1)北天星野(最微等級は5.2等級。満月であったが、昨年の新月5.3等級とほぼ同じ)
@ピーク時刻は、19:40(UT+9)にある。
A17:30〜21:30(UT+9)の流星総数は、2002年=1766、2001年=1836で、0.962倍。
Bピーク値は2002年=173個/5分、2001年=97の1.78倍である。
しかし、上記ABは以下の理由により修正が必要。
2001年と同様、北斗七星を中心に撮影したが、観測地の緯度が12°低いため、流星数
が増加した。(正確にはカメラの高度が違ったため、8.5°)
C観測高度の違いによる流星数の修正方法について
流星の数は、同じ面積を見ていても、見る高度によって違いがある。天頂に雲が
なくても、高度が下がるにつれて浮き雲が増え、地平線は雲が敷き詰められたよ
うに見えることと同様、流星は天頂よりも地平線の方が多く観測される。
2002年は2001年同様、輻射点高度が55°とほぼ同じで条件になっていたので、
これを利用して観測高度の違いを修正したので、以下に述べる。
第1表 流星数と高度の関係
西暦年
|
カメラ高度 (°) |
流星数
|
中心 |
上・下 |
2001
|
38
|
48 |
36 |
28 |
121 |
2002
|
29
|
39 |
95 |
19
|
237
|
|
第1図 流星数と高度の関係
(@)テレビ画面を上下に分割し、第1表のとおり2001年と2002年のピーク時間帯
流星数を数える
(A)高度20-50°付近では流星数の変化が指数関数的に変化し、大気による減光が
ないと仮定して、第1図から2001年におけるカメラ中心38°の高度と流星数の
関係を求める。
y2001=660.48×e-0.0606X (1)
(B)同様に、2002年におけるカメラ中心29°の高度と流星数の関係を求める。
y2002=564.84×e-0.0457X (2)
(C)RP高度50°の時、38°および29°における流星数の変化率は、
e-0.0606xおよびe-0.0457x と相違があるので、平均をとってe-0.0532xとする。
(D)高度X=29°における流星数は0°に対し0.214倍、X=38°では0.133倍である。
したがって、2002年を2001年に換算する係数は、0.133/0.214=0.621となる。
(E)故に、
流星の総数は、 1766×0.621=1097個。
流星のピーク値は、173×0.621=107個/5分
17:30〜21:30(UT+9)の流星総数は、2002年=1097、2001年=1836で、0.597倍。
最大は2002年=107個/5分、2001年=97の1.10倍である。
D2002(ピーク時流星数/流星総数)=107/1097=0.0975
2001(ピーク時流星数/流星総数)= 97/1836=0.0528
2002年ピーク時のアクティビティーは、0.0975/0.0528=1.85倍である。
Eピーク時間帯(ピークの1/2以上)は、2001年70分に対し2002年35分で、0.5倍である。
F2001年に比較して、明らかに暗い。
第2図 北天星野の流星数 2001/2002年(修正前)
2001年のピーク時刻は03:10(UT+9)
(1-2)輻射点RP(最微等級は4.8等級。2001年は5.0等級)。
@ピーク時刻は19:45(UT+9)にある。
A17:30〜21:30(UT+9)の流星総数は、2002年=380、2001年=790で、0.481倍。
B最大は2002年=31個/5分、2001年=35の0.886倍である。
輻射点を撮影しているので、高度の違いによる修正は不要。
C2002(ピーク時流星数/流星総数)=31/380=0.0816
2001(ピーク時流星数/流星総数)=35/790=0.0443
2002年ピーク時のアクティビティーは、0.0816/0.0443=1.84倍である。
Dピーク時間帯(ピークの1/2以上)は、2001年85分に対し2002年50分で、0.588倍である。
E2001年に比較して、明らかに暗い。
第3図 輻射点RPの流星数 2001/2002年
2001年のピーク時刻は03:20(UT+9)
以上、修正したデータについて整理して、第 2 表に示す。
第2表 観測データまとめ
|
2002年 |
2001年 |
2002/2001 |
北
天
|
ピーク時流星数(5分) |
107 |
97 |
1.10 |
1/2ピーク時間 (分) |
35 |
70 |
0.5 |
流星総数 (個) |
1097 |
1836 |
0.597 |
(*1) ピーク数/総数 |
0.0975 |
0.0528 |
1.85 |
R
P
|
ピーク時流星数(5分) |
31 |
35 |
0.886 |
1/2ピーク時間 (分) |
50 |
85 |
0.588 |
流星総数 (個) |
380 |
790 |
0.481 |
(*2) ピーク数/総数 |
0.0816 |
0.0443 |
1.84 |
(*1)/(*2) |
1.19 |
1.19 |
|
|
(2) 一定の明るさ以上の流星フラックスを検出(10分間値で集計)
@157コマ撮影し、フイルム上で判別できる流星は34個あった。
A18:10に多いが、ピークは19:40〜20:10である。
第4図 10分間あたりの写真流星数
MINOLTA α7000 f=28mm F=1.8 SUPERIA 1600 Interval 90sec expose 85sec
Losstime (18:20-18:25)(19:19-19:27)(20:19-20:27) UT+9
(3)ビデオによる永続痕スペクトル撮影
2001年と比較して、火球は極めて少なく、30秒以上痕が残る流星は1個だけであった。
このため、痕のスペクトルを撮影することは出来なかった。
(4) 流星雨の鑑賞
@快晴・透明度抜群・1000m以上の高地のため、月が明るくても空はあまり明るくな
いと想像していた。しかし、月も空も明るく、最微等級は3.5等級(視力は悪い)。
A19:48:20(UT+9)から30個の流星を数えるまで5.0分を要した。
視野は輻射点方向(h=55°)。因みにZHRを求めると、以下のとおり。
最微等級Lm=3.5 光度関数γ=2.0→Fa=8 RP高度=55→Fb=1.3 雲量=0→χ=1
ZHR = HR×Fa×Fb×χ= 30×60/5×8×1.3×1 = 3,744
ただし、最微等級3.5等級の修正計数Fa=8は大きすぎる。参考値である。
なお、2001年は03時(UT+9)ころ、265個/384秒の流星数をカウントした。(Lm=6程度)
4.まとめ
(1)ピーク時刻
ビデオによるピーク時間は、11月19日19:40〜19:45(UT+9)にあった。
写真では、19:40から始まり20:10(UT+9)まで継続した。
(2)2001年と比較
@北天星野の流星総数は0.597倍であったが、ピーク値は1.10倍であるため、流星総数
に対するピーク時のアクティビティーは1.85倍で活動的であった。
しかし、暗いものが大半でピーク時間長は0.5倍であった。
A輻射点RPでは流星総数が0.481倍、ピーク値は0.886倍であった。
北天星野同様にピークの活動は、1.84倍と高かったが、暗い流星が大半で、
時間長は0.588倍であった。
B19:48:20(UT+9)から30個の流星を数えるまで5.0分を要したが、痕を有する流星は
0個であった。その他の時間帯はビデオ観測の合間に見た1個だけであった。
(3)その他
@20-50°付近の流星数を指数関数で表すと、e-0.0457X 〜 e-0.0606X で変化している。
この値を利用して観測高度の違いによる流星数を修正した。
A2002年の月明かりは、眼視観測に予想以上の悪影響を与えたが、ビデオ観測には影響
が少なかった。
(4)課題
2002年と2001年の流星数を比較することが出来た。しかし、フラックスは光度について
も分析が必要である。
テレビ画面上でおこなう光度の見積もりは難しそうである。全ての流星を行うのではな
く、サンプルによる方法や、PCを活用した方法で実施したいと考えている。
以下の方々から、ご支援をいただきました。厚くお礼申し上げます。
注1:@N100およびレンズは、
「高校生天体観測ネットワーク1998-2002」(平成13年度子供夢基金)から貸与を受けた。
AFUJIX-FH101は、西野浩氏(札幌天文同好会)から貸与を受けた。
注2:生田盛氏(札幌天文同好会)がCCDを交換した高感度改造品である。
BO5(CCDチップを、ICX25 4ALへ交換)
TR-3000(CCDチップを、ICX248AL EXveiw HADへ交換)生田 盛氏より借用
注3:α7000は越山展行氏(日本流星研究会)のご厚意により、譲渡を受けた。
注4:グリズムは、海老塚昇氏(広域分光観測ネットワークPIメンバー)より貸与を受けた。
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