しし座流星群とアメリカ国立公園の旅

 
 

プロローグ

2002年しし座流星群は、多数の流星観測者がアメリカ西部へ遠征した。
私は、3月1日「NMS同報メール」を見て、遠征を決心した。
 
[nms 17371] 2002 年しし群北米都市の気象
"佐藤 孝悦" <zda54581@biglobe.ne.jp>
都  市 平均雲量 雲量1.5未満の日数 雲量8.5以上の日数 輻射点高度
ツーソン 0.8 25.0 0.0 47.6
 
 如何に素晴らしい環境であっても、「晴れなければ、星は見えない」。
5年間は幸運に恵まれたが、そろそろ運が尽きそうだ。
アメリカ合衆国アリゾナ州ツーソン市なら、2001年の北海道に続く観測ができる。
9月にはアフリカの方が多い、という予想が発表されたが、「確実に晴れる観測地へ行く」決心は揺らがなかった。
 以下に、2002年11月16-27日間、11泊の旅行について紹介する。
     アメリカ中西部

              周遊ポイント
 

1.ロスの空港で

 飛行機は定刻より少し速く9:30に着いた。入国審査に行列が出来て1時間以上の待ちを覚悟したが、途中から審査官の人数が増えて40分で終わり一安心。預けた荷物を受け取り、すぐツーソン行きのベルトコンベアーに載せるが、システムが良く分からないため不安でいっぱい。「スーツケースは、ツーソンに着くのだろうか?」。そんな心配している間もなく、次の試練が待ち受けていた。当然のことだが、ロスの空港は国際線と国内線の二つからなっている。右も左も分からないので、乗り換え便「SKY WEST」のある国内線ターミナルの場所を聞いて歩き回った。途中、次女に荷物を預けて一人で数kmも走りまわり、ツーソンの出発ゲートへ辿り着いたのは12時を過ぎていた。「乗り継ぎは1時間もあれば」と甘く考えていたのだが、ツーソン行きの飛行機が15:23と夕方で良かった。
 

2.初めてのアメリカドライブ

 通行車線が右側のアメリカでは日本人の事故率が高いので、車を運転する考えはなかった。しかし、個人で機材を持っての流星観測には必須だし、次女も運転するというので心強かった。
 さて、ツーソンの空港でレンタカーを借りた。なかなか立派な車である。翌日「Kプロジェクト」の木下さんに教えられたのだが、韓国製の「ソナタ」という高級車でDOHC2700CCだった。予約したのは下から2番目の車だが、「ハーツ」ではこの車を下から3番目にランク付けしている。お陰様でアメリカ大陸を快適に走破出来た。しかし、帰国3日前にアクシデントが発生する。それは、また後で・・・。

 運転席を見て驚いた。ハンドルも反対側についている。「右側車線を走る・対向車は左車線、左折は大回り・右折は小回り」と日本でイメージトレーニングをしてきた。だがハンドルの位置は右のままだった。なんともマヌケな考えであった。そんなことは言っていられないのでハンドルを握ったが、助手席に乗っているようで落ち着かない。ウインカーレバー・ワイパーレバーも反対である。馴れるには2日ほどかかったが、慌てると確実(?)に間違う。ドアミラーの目線角度も違い、後方の確認が疎かになった。予め頭に入れておいた道路地図とナビケーターの次女を頼りながら「右側車線・操作が左右反対・知らない街・夜道」というハンディーを負って走り出した。市内を走っている車の数が想像の2割程度だったのが幸いした。この後も、ラスベガスを除いて大きな街の都心へは乗り込まなかったこともあって、渋滞するような混雑には合わなかった。交差点へ入る時は、二人で声を出して安全確認。無事ホテルへ到着。だが、左側車線の対向車が怖くて、右へ寄って走りすぎる傾向は長く続いた。

  サンルーフ付きのハーツレンタカー
 

3.Mt.Remmonへのロケハン

 飛行機からの流星観測などで成果を上げている木下正雄さんが主催する「Kプロジェクト」。今回は、ご夫婦と嵯峨山さんの3人の旅行であるが、ツーソンで観測することになったので氏の推薦するMt.Remmonへロケハンすることとなった。ここは、9.11テロでNASAの飛行機に乗られなかった外国人研究者が観測した場所で、標高2,791m。札幌でいえば手稲山みたいな存在で、頂上がレモンのヘタに似ている。有料道路やレクリエーションエリアを通過して頂上まで行くと、アリゾナ大学付属「STEWARD OBSERVATORY」がある。フェンスがあって関係者以外は入られない。嵯峨山さんが中の人を呼び止めて、リチャードソン博士に送ったEメールを見せて面会を申し込む。インターネットでツーソン天文同好会を調べ、流星観測の情報を得ようとしたが、ここを紹介してくれたそうである。天文台へEメールを送ったが、返信は受けとっていない。暫く待つと許可がおりて中に入ったが、ドームが幾つもある。一番大きなドームに入ってみると、1mの反射望遠鏡が設置されていて、リチャードソン博士のほか職員1名、ツーソン天文同好会員らしい中年の男性と若い女性がいた。ここよりも直線で80km南方で、西に山を背負って月を遮ることができるSanta Rita Mountains付近が良いと言うアドバイスを受けた。Mt.Remmonの頂上は寒そうだし、道路には見晴らしの良いパーキングは無かった。有名なレクリエーションエリアなので人が沢山来るかも知れないので、調査の足を延ばすことにした。

Santa Rita Mountainsでは州道から脇道に入り場所を探したが、月を遮るほど山が迫った奥まで分け入ることは出来ず、真っ暗くなってから下山した。結局、この日は観測場所は決まらなかった。翌日の観測はKプロジェクトと一緒に行動したかったが、夜間の天候を見てフラグスタッフまで移動する可能性を残しておきたかったことと、昼間の行動が違ったため、連絡が取れず別行動となった。しかし、ロケハンに入った枝道とは違うが、数kmの近距離で観測していたことが帰国してから判明した。
        STEWARD 天文台にて
  左から、木下夫妻・リチャードソン博士は5番目
嵯峨山さんは7番目、3番と8番はツーソンの天員文同好会
 
 

4.ツーソン観光

 観測当日の昼間は、Saguro(サワロ) National Parkを見てからOld Tucson Studiosへ行く予定。しかし、時間がなかったため、隣接のTucson Mountain Parkを見学。熱く乾燥した平原に地平線まで続くサボテンの林と、青い空に流れる絹雲の世界に満足した。ここに住んで毎夜、星を見て暮らしたいと思った。

Old Tucson Studiosでは、西部劇のショーを楽しんでから昼食。ビーフサンドイッチを注文したのだが、コンビーフがパンの間からグチャーとはみ出して量の多いことに驚いた。付け合わせはビーンズを注文したが、何のことはない煮豆であった。TV映画「ローハイド」では食事のシーンが多く、カーボーイ達がよく豆を食べていたことを懐かしく思い出す。

観測準備のため13時頃ホテルへ引き返すが、昨夜インターネットで見た厚くて白い雲は何処へ消えたのだろう。真っ青な空には薄い高層雲が流れている。ホテルでチェックすると、雲は東へ流れながら消えている。この時点で観測場所をSanta Rita Mountainsに決定。15時に出発し、途中夜食を買い込む。父娘のショッピング姿を見つけたマーケットの店長が親しく話しかけてくる。嬉しかったが早々済ませて店を出る。州道83号線から、5.6km西に入ったFR62の路上に観測拠点の設置を開始したのは、薄明中の18時であった。
 ツーソン マウンテンパーク
後方のSaguaro(サワロ)サボテンと戯ける次女 あゆみ
 

5.観測の概要

 周囲は牧場で、遙か遠くに牛がいる。観測中、1組み2台の車が往復して行った。女性のドライバーがMeteor Shewerを知っていて、明るくして「sorry」と声をかけて通過して行った。ここの標高は1,300mもあり、寒かった。体を温めるのに駆け足すると空気が薄いので息が切れるので、ビデオの準備が終わった後は車中で暖まっていた。観測の準備は完全だったが、唯一の忘れ物は「ホッカイロ」であった。近視と老眼が進行しているので、目は良くない。また、明るい月と暗い流星のためか、錯覚と思われる流星が多かった。

観測はビデオに任せて流星シャワーを楽しんだ。ピークの19:40(JST)は、30個数えるのに5分を要した。流星数は予想の範囲であり、充分楽しめた。ただ、透明度の高い空で観測すれば良く見えるとの考えは誤っていた。月は沈むまで煌々と輝き、高度が低くなれば・・・、の期待は裏切られた。ともあれ、透明度抜群・雲量ゼロ・結露ゼロ・無風・光害ゼロ・周囲の喧噪ゼロの安定した観測地であったことは間違いない。観測の成果は、BO5による出現は2001年並みだが、N100で撮影した北の空の流星は2002年の方が多く、意外な結果であった。
              VX1000 1/4sec×4
     @19:08:51 A19:10:29 B19:11:45 C19:20:23 (UT+9h)
              背景は、北斗七星と北極星

 
α7000 f=28mm F=1.8 expose 85sec×2 SUPERIA 1600
         18:34 & 18:54 (UT+9h)
          背景はしし座、明るい星は木星
         観測成功! 
所属サークル(札幌天文同好会)の幟旗を掲げる筆者
    Santa Rita Mountainsにて

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