ゆっきいさんの小部屋

香澄さんと同じくマリアなチャットで知り合ったゆっきいさん
「二番弟子の修行は小説」という事で書き上げてくださいました。
(1999・8・17改稿)
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Happy Happy time will come along

 

  窓から冷たい風が吹き込んで来たので、マリアは作業の手を止めて窓を閉めに
立ち上がった。先程までは陽が差し込み、とても暖かく、窓を開けていないと暑
いくらいの陽気だったのに、さすがに夕方近くなると冷え込みが厳しくなる。
今年ももう終わりなのね・・・
窓の外の風景を眺めながら、マリアは思いを巡らせた。
 「マリア、何か手伝う事はない?」
気が付くと戸口に大神が立っている。
「私の方はもう終わりですから。それより隊長は少し休んでいて下さい。さっき
からずっと誰かの手伝いをしているのでしょう。」
隊員達に引っ張り回される大神の姿を思い浮かべながら、マリアは答えた。
「さくらくんは大道具部屋。紅蘭は格納庫。織姫くんは音楽室。すみれくんはサ
ロンで、カンナは鍛練室。アイリスとレニは中庭にいたな。」
「そして私が書庫ですか。」
それぞれが思い思いの場所の大掃除をしているのだ。皆で一緒にすれば早く終わ
るだろうに・・・。らしいと言えばらしいが、それに突き合わされる大神にして
みれば迷惑な話だろう。しかし、そんな事はおくびにも出さずに黙って手伝って
いるのに違いない。そういう人なのだ、この人は。
「そう、だから次はマリアの番。本当は一番に来たかったけれど、みんなに捕ま
ってしまったんだ。遅くなって申し訳ないね。」
「いえ、そんなことないです。」
大神はマリアの隣に立つと、窓の外を覗き込んだ。
「何か見えるのかい?」
「いえ、別に特別なものが見える訳ではないんです。ただ、外の空気がいつもと
違っているように思えて・・・」
「年の瀬だからね。きっと独特の雰囲気があるんだよ。」
「今年ももう終わりなんですね。一年なんてあっという間です。」
「去年の今ごろは海上訓練の船の上だったからな。こうして帝劇に戻って、マリ
アと話をしているなんて想像もしなかったな。」
笑いながら大神が言った。
 確かにこうして大神と肩を並べている自分の姿を、一年前の自分は想像しては
いなかった。ただひたすら帰って来て欲しいとだけを願ってきた一年だった。そ
うして、願いは叶えられた。大神は帝劇に戻って来てくれた。今の自分にはそれ
だけで充分だ。
 マリアはこみ上げてくる熱いものを感じて、それを振り払うかのように明るく
答える。
「私もです。まさか隊長にこうして大掃除を手伝っていただけるとは、思っても
いませんでしたから。」
「言ったな。」
「はい、言いました。」
「ハハハ・・・」
「フフフ・・・」
どちらからともなく笑い出し、その後お互いの顔をじっと見詰め合う。
「隊長、あの・・・」
ためらいがちに発せられたマリアの言葉を元気の良い声が遮る。
「ちょっと織姫さん。それじゃ駄目ですよ。」
「これでいいでーす。さくらさんは黙っていて下さい。どうせあなたのセンスに
は期待してませんから。」
「あら織姫さん、よく判っていらっしゃいますこと。」
「すみれさん、それ、どういう意味ですか。」
「そういう意味に決まってますわ。」
「すみれさん!」
遠巻きにさくら達のやり取りが聞こえてくる。
「・・・・賑やかだね。」
「そうですね。今年は賑やかなお正月を迎えることが出来そうですね。去年はあ
やめさんの事もあったし、隊長もいらっしゃらなくて・・・」
「あやめさんか・・・」
大神は視線を空に移した。あの人の事を思い出す時は何故か空を見上げてしまう

「でも今年は本当に賑やかになりそうですね。織姫とレニのおかげです。」
「レニはともかく織姫くんが居るだけで、確かに何倍も賑やかになるなぁ。」
一緒に空を見上げていたマリアが大神に視線を戻し、にっこり微笑む。
「何より隊長が居て下さるのが嬉しいです。」
「マリア・・・」
大神は少しはにかみながら、マリアの肩を抱き寄せた。
「そう言えば、さっき何か言いかけていただろう。」
「あれは・・・もういいんです。別に大したことじゃありませんから。」
「マリアの大したことじゃないは信用できないからな。いいから言ってごらんよ
。」
本当に大した事ではないのですがと、マリアは少しためらいがちに、先ほど飲み
込んだ言葉を口にした。
「・・・隊長はお正月休みはどうなさるのですか?」
 こんなことを聞くのは失礼かもしれないとも思う。でも、もし何も予定がない
のであれば、自分の用事に付き合ってもらえるかもしれない。
大神のことだ。ちょっとはにかみながらも、きっと二つ返事で了承してくれるだ
ろう。
「まだ考えてはいないけど・・・。みんなはどうするんだろう。」
「さくらとすみれとカンナは家に帰るようですね。アイリスはパパとママがこち
らに来るって大喜びですし、紅蘭もお世話になった方に久々に会うと言って、張
り切っています。」
「さくらくんは帰省するのか。帝劇に来てからまだ一度も帰っていないって言っ
ていたから、ご家族も喜ぶだろう。」
そうですね。とマリアは相づちを打った。
 家族も帰る場所も今の自分には関係のないものだ。けれども、いやだからこそ
、家族のいる隊員達には共に過ごせる時間を出来るだけ多く与えてやりたいと思
う。今はこうしてのんびり過ごしていられるが、この平和が何時まで続くか判ら
ないのだから・・・。
 そんな事を考えながら、マリアは一つの事に気が付いた。そう言えば、大神も
帝劇に来てから一度も実家に帰ったという話は聞かない。
「隊長は帰省なさらないのですか?」
「俺?その予定はないけど。」
「でも、お母様はお待ちになっていらっしゃるのではありませんか。」
「その母親が曲者なんだよ。」
大神は困ったように肩をすくめると、話を続けた。
「いつも手紙に、早く身を固めろとか、いいお嬢さんがいるから会ってみないか
とか、そんな事ばかり書いてくるんだ。この前なんか、お向かいの家の次男坊が
嫁さんをもらったって、お前より3歳も若いのに先を越されたって文句ばかり書
いてあるんだ。いいかげんうんざりだよ。」
「お母様は隊長の事が心配なんですよ。」
マリアは微笑みながら、母親というのはそういうものなのだと説明した。
「そうなのかな。でも俺にとっては迷惑なだけなんだ。自分の嫁さんは自分で決
めるし、決めたらきちんと連れて帰るからって言ってあるんだけど、なかなかあ
きらめてくれないんだよ。」
「大変ですね。」
「そう、お正月なんて親戚が集まる時に帰ったりしたら、それこそ恰好の餌食だ
よ。」
 大神はしばらく考え込むと、おもむろに切り出した。
「マリア、一緒に行かないか?別に何もない田舎なんだけど。」
「隊長の生まれ故郷ですか?行ってみたいですね。……隊長、いきなり何を言う
んですか。悪い冗談です。」
何気なく返事をしてしまってから、先程までの大神の話を思い出し、急に慌てて
マリアが言う。
「本気なんだけどな、俺は。よし、マリアが一緒に行ってくれるなら帰る事にし
よう。」
悪びれずに言う大神の横顔から視線を外し、マリアは俯いた。
「そんな事を急に言われても困ります。それに申し訳ないですが、他に行く所が
あって・・・。」
「どうしても、この休み中に行かなきゃならないって訳じゃないんだろう?」
「・・・・・・。」
大神は黙ったままのマリアをしばらく見つめると、小さく笑って呟いた。
「今回は見送りってところかな。」

「大神さ〜ん、ちょっと手を貸して下さ〜い。」
「判った、今行くから。」
大神はさくらの呼び声にやれやれというように肩を竦めると、素っ気なく返事を
してマリアの方に向き直る。
「お兄ちゃ〜ん、早く、早く〜。」
「隊長、お呼びが掛かっていますよ。早く行かないと。」
ほっとした様に言うマリアの耳元に顔を近づけると、何事かを囁き、急いでその
場を立ち去った。

去っていく大神の後ろ姿を見送りながら、マリアは何度か肯き低く呟いた。
「はい・・・、隊長・・・・・・。」

 『いつか絶対に連れて行くから、そのつもりでいるように・・・』
 

<Fin>
 
 
 


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