艦橋脇の鉄扉を開けると、横なぐりの強い風雪が頬を打った。
荒れ狂う冬の海を眼前にして大神少尉は思わず大きく身震いをした。防寒外套の襟を立て、凍りついたラッタルを登り始めた。おそらく彼女は上にいるに違いない。こんな天気に海を見ているというのか…容赦無く吹き付ける風雪に目を細めながら、大神は長いラッタルを
駆け登った。
大神が思っていたとおり、右舷艦橋の最上部に位置する監視台にマリアはいた。身じろぎもせず、マリアは水平線の彼方を見つめている。
声をかけようとした大神はしばらく声を失った。
吹き付ける風に乱れる髪もそのままに、マリアは海の彼方を見つめている。その横顔は厳しく、碧の瞳にどんな想いが映し出されているのか、大神にはわからなかった。
大神の姿に気がついたマリアは、微かな笑みを浮かべた。
安堵したように大神も微笑した。氷雪の中で微笑んで立っているマリアの姿はイコンの聖母を想わせる。
「風邪をひくよ、マリア」
監視台の手すりを握りしめながら傍らのマリアに大神は声をかけた。
「私は大丈夫です、隊長」
大神は自分の首に巻いていたマフラーを取りはらい、マリアの後ろから包みこむように、
マフラーをかけた。
「…隊長…」
大神の温もりの残るマフラーはとても温かかった。
「ありがとうございます、隊長」
マリアと並んだ大神は、マリアと同じように水平線に目を凝らした。鉛色の空と海との境にぼんやりとした影が見える。
「…あれは…あれは大陸か?マリア」
マリアは静かにうなづいた。
母国の大地のほんのわずかな影だというのに、こんなにも気分が昂揚しているのは何故だろう。何もかも捨てさったはずなのに…もう二度とこの大地は踏むまいと決めたのに…
この凍てつく空さえもマリアには例えようもなく懐かしかった…
果てしない雪原…温かな暖炉…にぎやかな団らん…熱いサモワール…
そして、革命戦争…
銃声と爆発音の中を駆けめぐる少女の冷徹な表情がマリアの脳裏に浮かぶ。
「おかえりなさいマリア」
その声が余りに現実的だったのでマリアは思わず後ろを振り返った。
「どうした?マリア」
心配そうに顔をのぞきこむ大神にマリアはかぶりを振った。
「何でもありません、隊長。……とうとう、着きましたね…」
「ああ、……ロシアだ…」
大神の横顔は初めて訪れる大陸への期待に輝いている。
大神のぬくもりを逃がさないようにマリアはマフラーをそっとかき合わせた。
「少尉!……大神少尉はいらっしゃいますかあ!」
ラッタルを勢いよく駆け登る足音に大神とマリアは、後ろを振り返った。
息をきらせて走ってきた無電室の水兵は、二人の姿を認めると直立不動で敬礼した。
「大神少尉に報告いたします。…緊急無電が入電しております。」
無電室から伝令に走ってきた水兵は、まだどこか稚さの残る少年兵だ。大神は入隊直後の自分の姿を思い出し苦笑した。
「ありがとう、すぐ行くよ。…多分、米田司令に違いない。」
大神とマリアは艦橋下部の無電室に向かった。
無電室の中には、縁無しの眼鏡をかけた技師然とした士官が二人を迎えたが、緊急暗号無電であったために、二人を無電室に残したまま部屋を立ち去った。
大神は、複雑な計器がびっしりと埋め込まれた無線装置の前の椅子に座り、マリアはその脇のスツールに腰をかけた。大神が、暗号解読機エニグマの暗号盤を数回、規則的に左右に
回転させると、暗号解読を示す緑の電灯が灯った。
「…おお、大神!聞えるか!…おおい、大神!…俺だあ!」
無線機の拡声機を壊さんばかりの相変わらずの米田司令の威勢の良さに、大神とマリアは顔を見合わせて笑った。
「大神です!米田司令、聞えますか?」
「おお、聞えるぜ…大神。すぐそばで喋っているみてえだ。……マリアはいるか?」
「隣にいます…今代わります、司令」
棒状の集声機を渡されたマリアは、一瞬間を置いて口を開いた。
「米田司令、マリアです……もうすぐ…もうすぐウラジオストクに到着します。」
無線機は沈黙した。大神は警告灯を見たが、緑のままだ。
「……そうだよなあ、マリア……久しぶりだよな、ロシアは」
マリアの過去を知る米田の気遣いを感じて、マリアは胸を熱くした。
「米田司令…本当にありがとうございます。再びロシアの土を踏めるなんて…」
「なーにを言ってるんだ、マリア。俺は本当に済まないと思っているんだ。お前達に褒美のつもりでロシア旅行をプレゼントしたつもりが、とんだ野暮用をお願いすることになっちまってよう…」
「いいえ、米田司令。任務は完全に遂行します、ご安心下さい。」
マリアの毅然とした答えに大神は肯いた。
「米田司令。マリアと二人で間違いなく目的地まで輸送します。」
新型霊子甲冑をシベリアの果て、イルクーツクまで極秘裏に輸送する計画……最初に米田司令からこの計画を聞かされた時には到底実現不可能ではないのかと大神は危惧した。が、しかし対降魔防衛の組織はもはや世界的に胎動し始めており、ロシアもその例外ではなく新型霊子甲冑『天武』をロシア軍が護衛することに決定していたのであった。
「……ありがとよ、大神、マリア…それから、気になる情報が入ってきたので伝えておく。極東駐在の連絡員からの報告によると、重火器類の武器や兵器を大量に集めている組織が
有るらしい。…今回の計画が漏れているとは思えないがくれぐれも用心してくれ…あの『天武』がとんでもない代物だってことはくどいぐらい説明したはずだが…もしも…もしもだぞ大神。万一『天武』が強奪されそうな事態にでもなったら…」
「承知しています。万一の場合は、破壊…」
「…もしくは、自爆します。」
落ち着いたマリアの声が無電室の中の空気をぴんと張りつめさせた。
「…頼んだぞ、大神、マリア……あ、それからマリア、ちょいとお願いしてえものがあるんだ。」
「何でしょうか、司令。」
「帰ってくる時によ、ロシアのオッカていう酒を土産に買ってきてくんねえかな?」
「了解しました!米田司令」
マリアの顔に再び笑みがもどった。
ロシア南東部プリモルスキー地方南東部、ピョートル大帝湾を臨む港湾都市、ウラジオストク。
古くからロシア極東の海上貿易の拠点として繁栄した港は、またロシア海軍の重要な軍事拠点でもあった。
埠頭には、大型戦艦や駆逐艦、巡洋艦が並び、掃海艇や補給艦などの小型艦艇も含めると
相当の隻数だ。
入港した駆逐艦「はやかぜ」は、ゆっくりと埠頭に近づき接岸した。
灰色の艦体色はロシア海軍のそれよりも若干明るく、艦橋の後部に備えられた電探設備の様々に突起した無線塔が艦の印象を特徴づけている。イギリス駆逐艦を原形に造られた特型
駆逐艦の中でもこの「はやかぜ」の改装は特異なものだ。地上の基地局の能力に匹敵する強力な無線、電探設備。第二砲塔と艦橋の間に設備された長距離噴進砲、そして水上偵察機を
二機搭載できる大型格納庫…しかし格納庫には本来搭載されるべき水上偵察機の姿は無かった。
格納庫の天蓋から大型起重機に吊り上げられた物体は暗緑色の防水幕で覆われ、外から見ただけではそれが何であるかはわからない。
埠頭に立つ大神とマリアは、起重機に吊られた物体をじっと見つめていた。
寒冷地局地戦を想定して設計された「天武」…膝関節部に不整地走行用の無限軌道が有る
以外には従来型の「光武」と外見的な相違は余り無い。
大神は出発前に紅蘭から受けた説明を反芻した。
『…大神はん…外見は確かに「光武」とそんなに違わへん…そやけどな…ひとつだけ決定的に違うところがあるんやわ…「天武」を動かすのは蒸気機関やあらへん…つまりその…なんて説明したらええんやろな…小さな太陽ができるようなものとでも言ったらええんやろか…発明した人の名前をとって「パトリチェフ機関」って呼ばれてるんやけどな…』
紅蘭の説明によれば、発明したのは日本に亡命したロシアの物理科学者ゲイダル・パトリチェフという人物であり、次世代内燃機関として着目した花小路伯爵が全面出資、神崎重工の立川工場で極秘裏に研究された内燃機関のことらしい。
試作機の完成は順調に進み、霊子力増幅装置との結合試験も終わろうかという頃、ゲイダル・パトリチェフはアパートの自室で何者かに殺された。その後の研究開発は神崎重工の技術者と李紅蘭の手によって進められ、「天武」は完成した。
「…隊長…一つ質問が有るのですが…」
マリアは周囲に人がいないのを確認してから、低く囁いた。
「なぜ、ロシアの対降魔組織に、動作試験も充分に済んでいない霊子甲冑を引き渡すのでしょうか?」
「…わからない…ただ、超低温下では蒸気機関に故障が多く発生しやすいという話は聞いたことがある。制御系の細かい管に結露が発生してそれが凍りつくことになるらしい。シベリアのような極寒地での戦闘に支障が生じるかもしれない…」
「隊長は、純粋に技術的な問題だとお考えですか?」
「…それは、何ともいえないな、マリア。もしかすると何か別の思惑が絡んでいるのかもしれない。」
ゲイダル・パトリチェフの変死には、GRU(ロシア内務省)が関係しているとの情報も流れていたが真偽の程はわからなかった。
「…政治、思想、戦争、いつも三つの大きな歯車が回っている…」
ロシア陸軍の大型牽引車に降ろされる最新兵器を見つめるマリアの目は悲しげだった。
「…マリア…」
大神は何かしらマリアに答えたかったが、言葉が見つからなかった。
防水幕に覆われた「天武」本体、補充部品庫の二つがそれぞれ別の大型牽引車に乗せられ、大量の蒸気を吐き出しながら大型牽引車の蒸気機関が始動した。
けたたましい機関音が鳴り響く中、先頭の牽引車からロシア陸軍の若い士官が降り、大神とマリアの方に向かって駆け寄った。
敬礼する若い士官に大神は軽く会釈をした。表向き、軍の関係者として来ているわけではないので外での軍人の儀礼は禁物だ。
若い士官のロシア語にマリアはうなづき、マリアが二、三の質問を返すと若い士官は頬をゆるませて答えている。
「予定通り甲は、ウラジオストク郊外のアンデーエフ基地に移送。ヒトヨンマルマルに到着予定。私たちはこれからウラジオストク市街の「コーシュカ」というカフェで、輸送部隊責任者のフィラトフ大佐と輸送計画会議に参加することになるということです。」
おそらく、ロシアの若い士官の言葉をそっくり通訳しているのだろう、悪戯っぽくマリアが微笑んだ。
「カフェだって?基地に行くんじゃないのか?」
「私もそう聞いたんです。そうしたら、私たちはあくまでも民間人であり、民間人は軍事施設には立ち入りできないとのことです。…それから…」
大神はマリアの言葉を待った。
「その店のボルシチはウラジオストクで一番美味しいからとのことです。」
笑いながらマリアは、目を丸くしている大神の手を取って走り始めた。
大神達を出迎えた車は、濃い葡萄酒色で塗装された高級車だった。機関音も殆どせず、柔らかな座席は眠さを催させるほどだ。
ウラジオストクの街並は、広い通りに重厚な石造建築が整然と立ち並んでおり、落ち着いた清潔な印象を感じさせる。なかでも、何本もの大通が交差する場所に建てられたゴシック様式のロシア教会の荘厳さに大神は思わずため息をついた。
「…素晴しいね…マリア…」
「ロシア人は信仰に篤いんです。とても素朴で純粋な信仰です。…私の住んでいた町にも
小さな教会がありました…子供の頃は良く教会で学び、遊びました。教会は特別な場所なんです…」
火喰鳥と呼ばれる前のマリアはどんな子供だったのだろう?大神はマリアの横顔を見つめた。
「とても仲の良い友達がいたんです。一緒に人形を造ったり、そり遊びをしたり…料理が
とても上手な娘で、その友達からは料理の作り方をたくさん教えてもらったんです…とても、楽しい毎日でした…革命戦争が始まってからも…」
車が止まり運転手は素早くドアを開けた。会話は中断し、大神とマリアは後部座席から降り立った。
猫の絵が描かれた看板を見上げながら大神は木造りの頑丈な扉を押し開け、マリアを中に
招き入れた。
外から想像する以上に店内は広く大きな円卓が幾つも並び、奥には居心地の良さそうな長いカウンターが見える。
赤ら顔の太った男がマリアに声をかけると、マリアは低い声で幾語かのロシア語で答えた。男は大きくうなづきながら、店の一番奥の扉を指し示した。
「奥の部屋にフィラトフ大佐がいるそうです。」
円卓の間を縫いながら奥の部屋を目指す大神とマリアの背後から、思いもかけぬ日本語が
浴びせかけられた。
「マリアさん…マリア・タチバナさんですよね!」
振り向くとそこには、若い日本人の男が立っていた。
前髪が顔の半分を隠しているが、頬の色は透き通るように白く、黒い髪とは対照的だ。
前髪の間から見える目は優しく微笑んでいるが薄い唇がどことなく酷薄な印象を与えている。着ている背広は上等なものだが、一見すると余り良い身なりには見えない。
「…はい…マリア・タチバナですが…」
男は右手に持っていた小型のライカをそっと円卓の上に置いた。
「…こんな異国の地で…貴女にお会いできるとは…」
柔らかそうな黒皮の名刺入れを取りだし、男はマリアに名刺をそっと手渡した。
「帝都日報極東支部支部長 秋水永久也です。…まさかウラジオストクで帝国歌劇団のスターにお会いできるとは思いませんでした。僕はマリア・タチバナさんの大ファンなんです。ほら、ブロマイドも持っているんですよ。」
秋水が名刺入れの中から取り出したのは、紛れもなくフランス軍の白い軍服を着たマリアのブロマイドだ。
「…どうも、ありがとうございます。」
思いもかけぬところでファンだと名のられ、マリアは少し狼狽しながらも微笑んだ。
秋水は大神の方を向くと同じように大神に名刺を差し出した。
「秋水です。」
「…大神です。…歌劇団のスタッフです。」
「良かったら一緒に食事しませんか?記事なんかにはしませんよ。いいや絶対にするものか!マリア.タチバナさんと一緒に食事をしたなどと記事にしたら、熱烈なファンが帝都日報の本社に押し寄せてしまいますからね!」
秋水の誘いにマリアは困惑し、助けを求めるように大神を見た。
「…せっかくですが秋水さん、すでに他の方と食事の約束をしていたんです。申し訳ありませんが…」
大神が丁重に断わると、秋水は大げさに天を仰いだ。
「…そうですか…残念ですね。…では、またの機会に…」
元の席に座ろうとしている秋水に軽く会釈して、二人は奥の部屋に向かって歩き始めた。
「…隊長…」
「どうしたマリア?」
「タイミングが良すぎると思いませんか、あの人」
「俺もそう思う…注意したほうがいいな。」
ドアの脇には二人の男が立っていた。地味なスーツを着ているが、体躯や目つきの鋭さから明らかに軍人とわかる二人だった。
大神とマリアがドアの前に立つと、男は黙ってドアを開けて二人を中に招き入れた。
部屋の中央には大きなテーブルがあり、正面にフィラトフ大佐が座っていた。
「ようこそ、我がロシアへ!大神少尉、マリア・タチバナ!」
思いがけぬ流暢な日本語がフィラトフ大佐の口から発せられた。
「さあさあ、早く席につきたまえ。この店のロシア料理はクレムリンのレストランより余
程うまいというので評判なんだ。どこの国の海軍でも艦の中の食事といえば大体決まりきったものだ。違うかね、大神少尉」
人なつっこい笑顔でフィラトフ大佐は二人を迎えた。
「ありがとうございます、フィラトフ大佐……驚きましたね、日本語がこんなにお上手だとは知りませんでした。」
「軍人には語学力は重要な武器だ。大神少尉、君がもしどこかの国と戦争を始めようと思うなら、まず敵の言語を勉強すべきだ。言葉を知れば考えがわかる。基本的な考え方がどんなものかわかれば戦略がたてられる。実に簡単な理由だ。もっとも君と戦争をするつもりはないがね」
部屋の中に入ってきた給仕達が、テーブルの上に食器やグラス、カトラリーを準備し始めた。グラスにはワインが注がれ、小さなカットグラスにはリモーナヤが注がれていく。前菜のキャビアカナッペや魚貝のマリネ、パテなどが並べられ、固いパン生地でふたをされたつぼ焼きや、白身魚のヴォルガ風和え、スズダリ風の豚角煮、モスクワ風カツレツなどが次々とテーブルの上にのせられていく。ワゴンではこばれてきたボルシチの鍋から美味しそうな匂いがたちのぼっている。
「さあさあ、グラスをとりたまえ!……いいか、みんな…トースト!」
フィラトフ大佐以下、十名の士官と大神、マリアは乾杯の後、拍手をした。
「…よろしい…みんな。…さあ、それではコーシュカ自慢の料理を肴に輸送計画について
確認していこう。」
流暢なフィラトフ大佐の日本語の説明の後、大佐の補佐役らしい士官が他の士官にロシア語で通訳を始めた。
「はるばる日本から運ばれてきたのは、帝国華劇団の最新兵器「天武」だ。この「天武」
は対寒冷地用の特別な装備となっており、またその心臓部ともいうべき動力には、特殊な機関が用いられている。…蒸気力でも電気力でもない全く別の力だ…ゲイダル・パトリチェフ
が考案した新機関…」
フィラトフ大佐は言葉を切り、大神とマリアをみつめた。
「君たちはこの新機関についてどんな説明を受けてきているのだろう。」
大神は大佐にわかりやすいようにゆっくりとした口調で答えはじめた。
「…新機関の原理については詳しくは知りません。ただ、その新機関の扱い方を誤ると想像を絶する惨事になると聞いています。小さな街一つが消えて無くなるほどのものだと…」
大神の最後の言葉に一同は言葉を失った。
フィラトフ大佐は小さなカットグラスの中のリモーナヤの黄色い液面をみつめている。
「…私もそのように聞いている。基本原理は比較的早い時期に完成していたようだが、その途方もない力を制御するための技術に苦心していたと…大神少尉、ところで今日到着した「天武」は起動実験は済ませているのだろうか?」
「はい、起動実験は二回行いました。しかし、駆動系の動作確認程度の実験です。兵器としての信頼度はまだ未確認です。」
「本格的な実戦能力についての実験はイルクーツクで行う予定だ。カチャーエフ准将が首を長くして待っておられる…我々は責任を持って護衛の任にあたるつもりだ…」
「よろしくお願いします、フィラトフ大佐。」
「仮にの話だが大神少尉…」
「なんでしょう?」
「あの「天武」が何者かに奪われた場合、どのように対処すれば良いのだろう?」
「大丈夫です、大佐。今の状態では「天武」は起動しません。私かマリアが暗号数字を入力しない限り「天武」は起動しないようになっています。誰かが闇雲に打っても起動することはありません。」
「安心したよ、大神少尉。もちろんそんな事態には決してならない。約束しよう」
にこやかに微笑んでフィラトフ大佐はリモーナヤを飲み干した。