ちょっと「大人」してるのでこんなマリアの姿は見たく無いという方は小説のページトップまで急いでお戻りくださいませ。

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Stay With Me

艶然と微笑むマリアを見て大神は思わず手にしていたマグカップを取り落としそうになった。
そのままマリアは大神の手からマグカップを取り上げ自分のと二つ並べて床の上に置いた。
戸惑っている大神の左手に自分の右手を重ね合せる。
「手袋を……脱がせて。」
「あ、ああ……。」
大神は右手でマリアの赤い手袋の中指の先を摘むとゆっくりと引っぱった。
皮手袋がするりと抜けると白く細い指先が現われた。
良く手入れされて綺麗にマニキュアが塗られている。
普段着飾る事を好まないマリアだが、女優として基本的な最低限の身だしなみは整えている。
いや、うら若き女性としてと言ってしまった方が正解なのだろうが。
右手が露になると更に左手も預けた。
大神は無言で左手の手袋も脱がせた後マリアと両手を繋ぎ合わせたまま唇を重ねた。
マリアは胸の奥で熱いざわめきが起こるのを感じた。
そのざわめきが背筋を伝って落ちて行く感覚に軽く身震いをして繋ぎ合わせた手を強く握ると、大神も同じように強く握り返して来た。
絡め合わせた指と指にすがる様にしてマリアはキスを返す。
軽いキスの後、マリアは立ち上がりちょっとうつむいて固く玉結びになっているコートのベルトを解きだした。
前髪が表情を隠してはいるが早まった息遣いまでは隠しきれなかった。
細い金色の髪が微かに揺れている。
マリアがベルトを解き終ると、大神はコートの右胸一番上のボタンに手を掛け、そこから順に一つずつ外していく。
ボタンが全て外されたコートの前を大神が両手で押し広げると肩をからすべり落ちたコートが床の上に放射状に広がった。
白いシルクのスタンドカラーのブラウスの上に掛けられている黒い皮製のエンフィールドのホルスターをマリアは外すとサイドテーブルに載せた。
背を向けたマリアの首筋に顔を寄せた大神の鼻孔を甘い香の香水が掠める。
「マリア……。」
大神の息が首筋にかかるとマリアはさらに身体の奥深い所で何かがうごめきだす様な感覚が沸き上がるのを感じて戸惑った。
初めてでは無いはずの感覚なのに恥ずかしさが先に立って、まるで心臓が大神の目の前に晒されているように大きく脈打っている。
「はぁ……。」
溜め息をつきながら小刻みに震える指先で背中のボタンを外そうとするマリアの手を優しく押し戻すと大神はブラウスを脱がせにかかった。
少しずつゆっくりと余計な物が剥ぎ取られて行くにつれマリアの表情は切なげになる。
いつもは着ている毛皮のコートのボリュームで誤魔化されているが、マリアの肩は思うよりもずっと華奢だった。
最後に細い金の鎖の留め具を外されたロケットはエンフィールドの横にそっと置かれた。
大神はマリアの姿をまぶしげに眺めると思わずつぶやいた。
「綺麗だよ、マリア……。」
 
 

軽い微睡から目覚めたマリアは腕枕をしたまま寝息をたてている大神の目を覚まさせないようにそっと身体を起こした。
薄暗がりの中で大神の隣に座り直すと眠っている大神の顔をじっと見つめた。
(隊長……。私……。)
大神の寝顔を眺めながら自問する。
(私なんかで本当によかったのだろうか……。でも……でも……私は……。)
マリアは自分のとった行動が大神にとってマイナスになるのではないかと危惧した。
しかし理性では抑えきれない感情が溢れ出る。
(……隊長。)
自分の肩を両腕で抱きしめると先程大神の腕の中で身体の隅々まで走った甘美な感覚が蘇って来てマリアは思わず声を漏らした。
「あぁ……。」
その声で大神は目を覚ました。
マリアが自分の顔を見つめていたのに気付くと微笑んだ。
「マリア……。」
この人はなんて優しく微笑むのだろう……と思いながらマリアは口を開いた。
「隊長……。すみません。」
「?」
「私なんかが隊長と。私なんかが……。」
大神はマリアの自己否定的な言葉に顔色を変えた。
「どうしてそんな事を言うんだ。」
「でも……私は隊長にふさわしい女じゃありません……。その……。」
「馬鹿!ふさわしいとかふさわしくないとかそんな事を言うな。俺はマリアの事が大切だから愛しいから抱いたんだ。それを……そんなふうに言うもんじゃないっ!」
大神の語気の強さに驚きながらも続けた。
「隊長……でも、でも私は……。」
「マリア、そんなに自分を卑下するような考え方はいけないよ。もっと自信を持って。俺が大切に想っているのはマリアなんだから……。」
大神の気持ちが自分が大神の事を想うのと同じように、いやそれ以上に自分の事をいとおしく思ってくれていると感じて胸がいっぱいになった。
「……すみません隊長。」
「もう2度と言うなよマリア。そんなに一人で不安がらずに俺を信じて欲しいな。」
そう言うと大神はマリアの瞳を覗き込んで微笑んだ。
「隊長……。」
泣き出しそうな顔で応えるマリアを大神は強く抱きしめた。
「マリア。」
「隊長……あぁ……。」
再び重ね合せられた胸の高なりにマリアは我を忘れて大神にしがみついた。
「マリア……。」
抱きしめられ心も身体も一つに解け合うように絡み合う程に。
もっともっと深く近づき合いたいと狂おしく想うマリアだった。
遠のきそうな意識の中でマリアの耳に朝の6時を告げる鐘の音が聞こえてきた。
「……た、隊長。」
「マリア……。」
「はぅ、うっ……。そろそろ部屋に戻らないと……あぁ……。」
「……マリア……帰したくないよ……。」
「だ、駄目です……隊長……はあぁ……。」
そう言いながらもマリアは大神の背に回した両腕に力を込めた。
大神もマリアの口を塞ぐ様に唇を重ねた。
その時隊員室の方から隊長室に向かって歩いて来る足音が聞こえドアがノックされた。
控えめにでもはっきりとした音で。
抱き合ったまま思わず顔を見合わせた二人だが、かなり長い沈黙の後で大神がやっとの事で返事をした。
「誰?」
「……あのぉ朝早くにすみません。さくらです。大神さんちょっとよろしいですか?」
「……さくら君?ちょ、ちょっと待っててくれ。」
大神は慌てて答えると急いで夕べ脱ぎ捨てたままになっている服を着始めた。
マリアも自分の服を拾い上げ抱え込むともう一度ベッドに潜り込みそのままシーツを被った。
大神は服を着終ると自分が通れる最小限だけドアを開けて素早く潜り抜けると後手にドアを閉めた。

(1999・3・28完)

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