"I believe in Father Christmas" she said.

 
    太正14年12月24日。

 此処、大帝国劇場では大成功に終わったクリスマス公演とその後の打ち上げパーティーの余韻を残しながらも静かに聖夜が更けていった。

 粉雪の舞う中、12時の教会の鐘の音とともに肩を寄せ合って劇場の玄関を入ってくる二つの影。
 ゆっくりとお互いの歩みを確かめ合うようにロビーを通り抜け二階へと移動していく。隊員室の一番階段に近い部屋のドアの前で立ち止まると、二つの影は何時しか一つに重なり合っていた。
 そのままこぼれ落ちてしまいそうな優しい時間をいとおしむように。

 名残惜しそうに大神が口を開いた。
「じゃあマリア、俺はこれから見回りをするから。」
「隊長、今夜はありがとうございます。遅くまで付き合わせてしまって・・・すいませんでした。」
「いや、俺もマリアと一緒に過ごせて楽しかったよ。お休みマリア。」
「お休みなさい、隊長・・・・。あらっ・・・。」
「どうしたんだい?」
「アイリスの部屋のドアに、靴下が・・・。」
「そうか、そういえばサンタクロースにプレゼントのお願いの手紙を書くって、前に言っていたけど。しかし随分と大きな靴下だなぁ。」
「ええ、本当に。きっと沢山お願いしたのね、アイリスらしいわ。」
「どうやらサンタが来て行ったようだね。多分ちょっと酒臭いサンタのおじいさんだったようだけれど。ははは。」
 大神は靴下を覗き込みながら言った。
「隊長、私もお願いしたんです。」
「えっ?マリア・・・も?」
「はい、クリスマスにはプレゼントをお願いしますって。」
 微笑みながらそう話すマリアの顔を大神は訝しげに見つめた。
「おかしいですか?私がサンタクロースにお願いするのは。」
「いや、ちょっと意外だったものだから・・・。」
「ふふ、そうですね。でもお願いしたんです。」
「で、願いは叶ったのかな、マリア。」
「今夜プレゼントを貰いました。」
「米田長官に?」
「隊長、違いますよ。サンタクロースにです。」
「マリアのお願いってなんだったんだい?」
「それは秘密です。私とサンタクロースだけの。でもサンタクロースはちゃんとお願いしたプレゼントを届けてくれました。・・・・先程届きました・・・・。」
「・・・、マリアは信じているんだね。」
 大神の問いかける言葉に頷きながらマリアは応えた。
「そう、信じてます。だって・・・・。」
「ん?」
「いえ、隊長では本当にお休みなさい。」
 そう言い終えるとマリアはドアノブに手をかけようとした。
「・・・あ、ああ、お休みマリア。」
 大神は納得しかねるような表情で返事をした。しかしマリアのまっすぐに自分を見つめている瞳を覗き込むと、彼女の真意が解った様にもう一度唇を重ねた。
 
 一人、部屋の中で開け放した窓から粉雪の舞う夜空を見上げながらマリアはつぶやく。
「今夜のプレゼント、ありがとう。」

1998・11・16(完)
BGM・高乃麗BORN TO LOVE YOU

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