大神part1

3月某日
 長かったようで短かった、江田島での日々が終わった。
 辞令を受け取ったとき、オレは自分の目を疑って止まなかった。
 
 辞令 大神一郎少尉殿
 貴殿に秘密任務として帝国華撃団対降魔迎撃部隊花組隊長を命ずる。

 そう書かれていた。
 秘密部隊とはいったいなんなのか。それに「降魔迎撃部隊」とはいったい。
 それ以前に、なぜ海軍の自分が就任するのか。全くもって不可思議だ。
 花小路伯爵からの推薦というのを、校長から聞かされた。訳をここで話すわけ
にはいかないので、直接伯爵から聞くように、と。
 とにかく、上京の準備だけはしたほうがいいらしい。
 夢の巡洋艦勤務はいつになることやら。 
 
4月某日
 本日をもって帝国華撃団に着任。上野公園で待ち合わせる。
迎えに来たのは、黒髪の少女とオレの腰ほどの高さしかない
子供。柔らかいブロンドと綺麗な眼をしている。
 黒髪の少女は真宮寺さくら。ブロンドの子供がイリス。
愛称でアイリス、というそうだ。
 ついた場所は、大帝国劇場。秘密部隊ときいていたが、まるっきり
劇場だった。どこに秘密部隊があるのだろうか。
 隊員も女の子達ばかり・・・・・。

4月某日
 帝国歌劇団は帝国華激団だった。
 支配人から「なぜ帝撃と帝劇なのか」という
レクチャーをうける。とはいっても、軽く話されて
しまったので、後は自分で考えろ、ということなのだろう。
 慣れるまでは大変かもしれない。
 隊長として公平に、誠実にやるしかない。

 
 数ヶ月前の日記を読み返しながら、大神は笑うしかなかった。
 配属される前、配属直後は「一体全体どうしてオレが」的な
日記だったのに、5月になるともうなじんでいる自分がいたのだ。
 あやめの巧みな助言。それに自分が来るまで隊長をしていた、
マリアのサポート。これがなかったら、【なじむ】まではいかなかった
だろう。
 それでなくたって、女の子が多い。個性もバラバラで、強い。
生まれも育ちも異なる人間がいて、ここまで丸く収まっていられるのが
不思議なくらいだ。
 言い合いが始まっても、マリアやあやめが絶妙な間合いでその場を
収めてくれる。
 
「でも・・・・・」
 日記を書く手をとめ、大神はふととある事を思い出した。
 花組は一緒に生活しているせいか、年は違ってもおおむね
仲がいい(一部例外はあるとして)
 みんなで騒いでいても、マリアは必ず一歩引いていた。年長者
として皆を見守っている、の一言では片づけられない「何か」。
 自分に対して一線を弾いているのは、彼女の態度で分かっているし、
彼女の口からもはっきり言われている。まだ信頼するに足らない事も・・・。
 なにが彼女を邪魔しているのか。
 あやめさんが言うとおり、マリアは自分の事を話そうとしない。
聞いても話してくれないのだろう。
 話してくれないのなら、話してくれるまで待つしかない。
 オレを隊長と認めてくれたとき、話してくれるのだろうか・・・・?。
   
 その日、大神は日記を書かず、マリアの事を考えてしまった。

6月某日
 マリアの様子があきらかにおかしい。
 舞台でもセリフのミスがあった。勿論、そこは無事に切り抜けられた
のだが・・・。夕方、拾ったロケットを手渡したときも、おかしかった。
あまり深刻なようなら、最終手段で、あやめさんに話を振った方がいい
のかもしれない。

6月某日
 やっと起きられるようになった。ひねったりすると流石に痛むが、
日常生活には支障なし。なにかとみんなが助けてくれるのが嬉しい。
 紅蘭の薬は効き目はいいけど副作用が困りものだなぁ。
 どこにいても眠くなってしまう。
 

 薬の副作用で猛烈に眠いなか、大神は普段の倍かけて日記を書きけあげる
と、とりあえずベッドに横になった。
 どのくらいたったのか、額にひんやりとした感触。冷たいのに、なぜか
心地よい。
 はた、と気が付くと手の主はマリアだった。
【あの時と同じ】【何故飛び出したのか】、マリアに問われて、あまりの
きつさに大神は一瞬ひるんだ。
 しかし、大神は自分の気持ちを正直に伝えた。子供一人を守れなくて、
帝都が守れるのか。もしあそこで飛び出さなかったら、一生後悔し続けた
こと。
 マリアの反論は、もっともなことだ。兵法にかなってる。大局を
見るならば、多少の犠牲はやむを得ない。
 感情を露わにするマリアを見て、別の大神が冷静に彼女を観察する。

 射撃の腕前。あれは生半可な腕ではない。抜き身の早さを見ても、
ほぼ間違いなく、実戦で慣らしたものだ。訓練で身につけたのとは
また違う・・・。

 「あなたは隊長失格です」
 言い残して、そのままマリアは出ていってしまった。その言葉に
胸が痛むが、とにかく大神はマリアを追いかけた。
 追いついたとき、そこに現れたのは黒之須会の幹部。
 マリアに向かってなにか言っている。
 ロシア革命の闘志・・・クワッサリー?
 その頃マリアはまだ年端もいかない子供のはず。
 
 −−声にならない悲鳴を聞いたようなきがした。−−
 
 
 
 

大神パート−1・完
Maria part2へ

戻る