第十二回へ第十一回 赤いVBと炎と消火器
人間にとって視力を奪われることは、凄まじい恐怖である。何故 ならそれは単純に、危険を察知できなくなるからだ。それは即ち、 VBをプレイするときにもそのまま当てはまることになる。そのこ とが、笑い話ではすまされない深刻な事態を引き起こさないと誰に 断言できるだろうか?「僕は、あんな恐ろしい思いをしたのは初めてです」
今回取材に応じてくれたある高校生は、瞳の奥に未だ恐怖をたた えた表情で語り始めた。彼はVBをプレイ中、彼の人生でも屈指の 恐ろしい事態に見舞われたのだという。
「僕はそのとき、部屋で蚊取り線香を焚きながら『ギャラクティッ クピンボール』をプレイしていました。あのとき…あのとき、遊ん でいたゲーム機がVBでさえなければ、あんなことにはならなかっ たと思うんです」
彼の口調と表情からははっきりと後悔の念が読み取れた。しかし 私はこのとき、彼の言動に不審な点を見出した。
「あの…何故、こんな時期に蚊取り線香を?」
そろそろ秋も深まって冬の気配が近づいてきた感のあるこの時期 だというのに、何故に彼は蚊取り線香を焚いていたのだろうか。
「それは…僕は、蚊取り線香の匂いが好きなんです。いえ、そんな ことはどうでもいいんです。そう…あのときふと、部屋に焦げ臭い 匂いが漂っていることに気づいてVBから顔を離したときには、す でに手遅れでした」
なんと、彼が異臭に気づいて部屋を見回すと、ティッシュペーパ ーの箱から紅蓮の炎が立ち昇っていたのである! その炎はすでに 絨毯にまで燃え移り、見上げれば部屋中を覆わんばかりの勢いで天 井を黒煙が這い回っているではないか!
彼は激しい恐怖に駆られ動転し、生まれて初めて消火器を使用し た。「おそらく、ピンボールのクセで台揺らしのために、全身でプレイ してしまったせいで、知らない間に蚊取り線香を倒してしまったの でしょう。恥ずかしい…VBをプレイしていたために、消火器を使 うことになるなんて…」
彼は恥辱感に苛まれたのか、このとき以降私とまともに目を合わ せようとはしなかった。VBは、人をここまで追いつめることがで きるのだろうか。
最後に、彼は背中で語った。「僕は、もう二度とVBはやりません」
第十一回 終