第十六回へ第十五回 大いなる代償(前編)
この日、私はある喫茶店内で一人のVBユーザーと対談をして いた。彼はVBのソフト中、屈指の高い評価を誇る「レッドアラ ーム」をクリアした強者であり、その話を聞きつけた私が彼に取 材を申し込んだのは当然の成り行きと言えよう。「これはなかなか珍しいソフトですよ。『SDガンダムディメン ションウォー』です。これを手に入れるのは苦労しました。散々 探し回った挙げ句、ようやく見つけた店で1980円も払わされまし たよ」
彼はこの話を、表向きこそ苦々しい口調で語っていたが、その 実内心はこの希少価値の高いソフトを所有していることを、誇り にさえ思っていることが彼の口元の笑みから、ありありと見てと れた。
「どうです、ゲーム画面をご覧になりますか?」
彼はそう言うと、おもむろにバッグからVB本体を取り出した。
「いや…何もこのような場所でVBをプレイしなくても」
先にも述べたが、ここは街中の喫茶店内である。彼がVBを取 り出した瞬間、当然の如く我々は、店内にいた数人の客に奇異の 視線を向けられた。ウェイトレスに至っては、驚愕の表情を浮か べている。
だが、私がこれまでに遭遇したVBユーザーの例に洩れず、こ の男もまたこのことをほとんど意に介していないようだった。
慣れというものは恐ろしいものであり、私は口ではVBのプレ イを拒んだものの、さして強い態度で否定したわけではなかった。 気分的には、すでに開き直りに近い状態だったのかもしれない。
そうして、彼が準備を整え、VBの電源を入れたそのときだっ た。「お客様、店内でそのようなものを出されては困ります」
我々に声をかけたのは、さきほど驚愕の表情を浮かべていたウ ェイトレスだった。
第十五回 終