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第十五回  大いなる代償(前編)

 この日、私はある喫茶店内で一人のVBユーザーと対談をして いた。彼はVBのソフト中、屈指の高い評価を誇る「レッドアラ ーム」をクリアした強者であり、その話を聞きつけた私が彼に取 材を申し込んだのは当然の成り行きと言えよう。

「これはなかなか珍しいソフトですよ。『SDガンダムディメン ションウォー』です。これを手に入れるのは苦労しました。散々 探し回った挙げ句、ようやく見つけた店で1980円も払わされまし たよ」

 彼はこの話を、表向きこそ苦々しい口調で語っていたが、その 実内心はこの希少価値の高いソフトを所有していることを、誇り にさえ思っていることが彼の口元の笑みから、ありありと見てと れた。

「どうです、ゲーム画面をご覧になりますか?」

 彼はそう言うと、おもむろにバッグからVB本体を取り出した。

「いや…何もこのような場所でVBをプレイしなくても」

 先にも述べたが、ここは街中の喫茶店内である。彼がVBを取 り出した瞬間、当然の如く我々は、店内にいた数人の客に奇異の 視線を向けられた。ウェイトレスに至っては、驚愕の表情を浮か べている。
 だが、私がこれまでに遭遇したVBユーザーの例に洩れず、こ の男もまたこのことをほとんど意に介していないようだった。
 慣れというものは恐ろしいものであり、私は口ではVBのプレ イを拒んだものの、さして強い態度で否定したわけではなかった。 気分的には、すでに開き直りに近い状態だったのかもしれない。
 そうして、彼が準備を整え、VBの電源を入れたそのときだっ た。

「お客様、店内でそのようなものを出されては困ります」

 我々に声をかけたのは、さきほど驚愕の表情を浮かべていたウ ェイトレスだった。



第十五回 終


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