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第十七回  レッド・セミナー#1 発端

 私のようにVBユーザーの取材を続けていると、いつしか玩具屋 やゲーム専門店などに入ったときに、無意識のうちにVBを探して しまうようになる。
 見知らぬゲーム売り場などを見掛けると、思わず意味もなく期待 に胸を膨らませて急ぎ足になり、私の目線はまだ見ぬVBを追い求 めてあてどもなくさ迷うのだった。
 しかし大抵の場合、その行為は無駄に終わってしまうのだが。

 今やほとんどの店からVBは姿を消してしまい、わずかに店頭に 置かれている店においてもその扱いたるや、あたかも『ご自由にお 取りください』と言わんばかりに、杜撰な値段がつけられている。
 これが、かつてはゴールデンタイムにTVCMまで流していた32 ビットゲーム機の成れの果てだった。もっともVBは、発売当初か ら最低に近い売り上げではあったのだが。

 今日私が訪れた店は、今なおVBが売れ残っている珍しい店であ る。ここにきてVBユーザーが急増しているため、VBの入手は日 一日と困難になりつつあった。それは鉄道における、廃線寸前のロ ーカル線の賑わいを思わせた。
 さてこの店のVBの値段だが、4980円である。はっきり言って高 い。高過ぎると言っていい。私はかつて、本体が580円で売られてい る店を見たことがある。だがそれほど極端な例をあげなくとも、こ の店のVBは高過ぎた。私はこの店の経営方針をも疑い始めていた。

 店頭でVBの箱を眺めながらそんなことを考えていると、不意に 私の視線を遮るものが現れた。それは小学校高学年ほどの少年だっ た。
 その少年はVBの箱を見上げると、何かを考え込んでいるような 様子でじっとたたずんでいた。少年が振り返ってレジを覗き見ると、 ちょうどレジでは店員と、店の常連らしき客の雑談が始まったとこ ろだった。少年はそれを見て取ると、ためらいがちにVBの側を離 れて、他のゲーム機の方に興味のある素振りを見せるのだった。

 少年がVBを買おうとしているのは明らかだった。私はその少年 の動向を不安げに見守っていた。心中穏やかでなかった。カセット テープに録音された家族の悲劇は、まだ記憶に新しい。ちょうどそ のテープを提供してくれた少年が、この少年と同じぐらいの年頃で あることが、私の不安を増大させた。

 どのぐらいの時間が過ぎただろうか。ついに常連客が雑談を終え て、店から出ていった。運命の時が来た。少年はVBを手にかけた。 私は心の中で絶叫していた。

『やめるんだ! VBを買ってしまうと…いや…何も言うまい。し かし、もっと安い店があるじゃないか!』

 私の心の叫びに気付いたのか、少年は私の顔を盗み見た。しばし の間、私と少年は対峙していた。
 私がゆっくりと首を横に振ると、少年はVBから手を離して店か ら出ていった。あくまでも私の主観ではあるが、その時の少年の表 情からは清々しいものが感じられた。私は安堵のため息をついた。

 だがこの時、私は突き刺さるような悪意ある視線を感じていた。 不覚にも、私はこの視線の主である人物を思い出すことが出来なか った。そして、これが後に起こる忌まわしい事件の発端になると予 想することも…。



第十七回 終


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