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第二回 期待は失望の序曲

 ある日、私の友人から驚くべき情報がもたらされた。なんと彼の 勤め先の会社の先輩に、VBを発売日に購入した人物がいたという のだ。発売日ということは、無論定価である。
 私は是非ともその人物に会ってみたくなり、友人に頼み込んでみ たのだが、彼は力なく首を横に振った。よって残念だが、ここでは その友人が語った内容を紹介するだけに留まろうと思う。

「俺は止めたんだ」

 友人の第一声はそれだった。

「それなのに先輩は、VBを買って来て…寮に帰って来るなり、自 分の部屋に閉じこもったんだ。確か、『誰も入るなよ』とかなんと か言っていた」

 ところが数分後、先輩の部屋からガタン!と重量物の落下による ものとおぼしき音が響き渡った。不審に思った友人が先輩の部屋の ドアをノックしようとしたところ、ドアの方が先に開いてきた。先 輩が部屋を出ようとしていたのだ。

『どうしたんですか! なんですか、今の音は!?』
『…だめだわ……あれ……』

 そのときの先輩は青白い顔をして、目の周りだけがVBをプレイ していたのだろうか、微かに赤く染まっていた。口は半開きで、ふ らふらとした足取りでタバコの自販機に向かっていったという。

「次の日、先輩は大きな紙袋を提げて出ていったんだ。帰ってきた ときは、手ぶらだった」

 重い沈黙が降りた。私はそれ以上のことを友人に聴かなかった。 聴かずとも、全てを理解するには十分な情報を彼は語ってくれてい た。

 その人物は、VBに発売前から期待していたらしい。発売日には、 子供の頃の誕生日のように胸を弾ませていたことだろう。彼のこと を滑稽だと笑うことなど、いったい誰にできるだろうか?

 友人によると、現在会社を辞めてフリーターとなっているはずの その人物の消息は、不明である。



第二回 終


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