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第二十一回  レッド・セミナー#5 監禁




ゲームを はじめるまえに ちゅういしょ および

とりあつかいせつめいしょを かならず よんでください




 VB。それは時代の坂を登り損ねた失敗機。通常人には理解し難 い屈折したコンセプト。32ビットハンディーゲームマシン。ここ でいう『ハンディー』とは、もちろん『ハンディキャップ』の意味 である。

 そのゲーム機の起動画面が今、私の眼前に有無を言わさず突きつ けられていた。一瞬の混乱の後、私は自分の置かれている状況を直 ちに悟った。

「目が覚めたようですね」

 誰かが声を掛けてきた。聞いたことのある声だった。私は声を荒 げて抗議した。

「貴様……これは何のまねだ!? どうやら縛られた上に、玩具の 手錠でも掛けられているようだが…しかも、被されているのはVB の拷問装置だな」

 以前会ったときは取材の名目上敬語を使っていたが、拉致監禁さ れたとあってはその必要は全く無い。

「玩具の手錠とは心外ですね。気付きませんか? その形に」

 言われてまさぐってみると、ボタンがある。十字キーがある。考 えるまでもない。目よりも手の方がよく知っている形状だった。こ のときスタートボタンを押してしまったらしく、画面の表示が『V IRTUAL BOY』へと変わった。

「グリップを手錠型に改造した拷問パッドです。本体のヘッドギア 同様、しっかりロックされてます」

 VB同好会会長は以前と変わらず、狂気を潜めているかのような 口調で話すのだった。画面には、続けて「AUTOMATIC PAUSE」の選択 画面が表示された。ボタンを押すと、何かのゲームのオープニング が始まった。

「……シンパは?」
「彼は新たに入会した、VB同好会会員です」
「やはり……こうやってか……」

 私は怒りを絞り出すように苦々しく言葉を紡いだ。

「改造VBを、それと知らず購入したシンパを拉致し、会員に引き 入れるとは…」
「何をたわけたことをのたまっているのですか。そのような事実は ありませんよ」

 会長の言動は自信に満ちていたが、それを上回る冷酷さが説得力 を相殺していた。会話の間にも貧相なオープニングが画面に流れ続 けている。

「あなたにはそいつをクリアするまで、そうしていてもらいますよ。 そう、あの店で売れ残っているVBのように」

 足音が遠ざかり、ドアを閉める音がした。ちょうどその瞬間、画 面いっぱいに『TELEROBOXER』という文字列が踊り出て 来た。

 私は、ある少年が不当な値段でVBを購入しようとしていた現場 に居合わせたときのことを思い出していた。そして、少年に購入を 控えるよう促したとき、私に悪意ある視線を突き刺してきたバイト の店員こそ、紛れもなくVB同好会会長であることも。



第二十一回 終


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