タイトルへ

自作小説集へ

ボイラー室へ

第二十二回  レッド・セミナー#6 明滅

 テレロボクサーのやり過ぎにより、私の疲労は極限状態に近くな っていた。鉛のように重い頭が、激しい痛みに襲われる。あまりの やるせなさに、全身が脱力感に蝕まれていた。

 やはり、このゲームの内容は極めて稚拙としか言い様がなかった。 いったい誰が、このようなゲームを最後までクリアしようなどと考 えるだろうか? そのためには、凄まじいまでの執念を必要とする だろう。そして、それだけの価値を見つけることさえできはしない。 残るものは、おそらく苦痛だけである。

 それほどまでに自信を持って卑下できるゲームであるにも関らず、 私はこのゲームの中断を許されぬ状況下にあった。
 ヘッドギア型の改造VBは頑強に頭部に固定され、はずすことは 不可能である。手錠型の改造パッドは言うまでもなく腕の自由を奪 い、なおかつ電源を切ることさえ不可能にしていた。
 いや、実のところ、電源スイッチらしきものはこのパッドには付 いていないようなのである。VBはパッドにスイッチが付いている はずなのだが。さらに、電源は電池ではなくコンセントから供給さ れているらしい。無論、抜けないように完璧な細工が施されている と思われる。どうやら、是が非でも私にテレロボクサーを中断させ ないつもりのようだ。

 どのぐらい時間が経過しただろうか? 私は、そもそもここはど んな場所なのだろうかという不安に駆られていた。
 気のせいか、ときどき足音や話し声のようなものが聞こえてくる。 おそらくVB同好会の会員ではないだろう。雰囲気から察するに、 校内の廊下のような場所なのかもしれない。だが壁の向こうから聞 こえてくるような感じがするので、晒し者にはなっていないようで ある。というより、私はそう信じたかった。

 不意に、笑い声が聞こえてきた。私には関係ないことだと思うが、 あまり気持ちのいいものではない。屈辱的な出来事だった。
 大声をあげて助けを求めることも考えたが、現在の状況を考える ととてもそうする気にはなれない。それにそんなことができる状況 には、あの会長ならしないだろう。

 永劫のように長い時間が流れた。もう夜になったのだろうか。私 には信じられないことだったが、未だに数時間しか経過していない。 その間、VBは片時も沈黙することなくテレロボクサーを実行し続 けていた。私の脳内はすでにテレロボクサーに侵され、視覚は色彩 を失い、聴覚は麻痺して今聞こえている音が幻聴なのではないかと 思えるほどに、現実感を失っていた。

 目を閉じてもテレロボクサーの画面が消えることはなかった。す でに網膜に焼き付けられた不毛な情報が、頭脳を侵略してくるのを 感じて私は正気を失いそうになった。
 しかし目を開けると、それを上回る現実のゲーム画面がまさしく 眼前に突きつけられ、私の精神は拒絶反応を起こした。意識は虚空 へと逃れようとしたが、それもVBの画面上で踊らされたに過ぎな い、擬似的な逃避でしかなかった。



第二十二回 終


第二十三回へ

タイトルへ

自作小説集へ

ボイラー室へ