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第二十三回  レッド・セミナー#7 苦痛

 よもや、VBがこれほどまでに精神に苦痛を及ぼすものだとは、 私は想像したことがなかった。強制的な長時間のプレイによって、 脳内に刻み込まれたゲーム画面は、焼き刻まれた刻印と化して頭痛 を引き起こす。
 私は疲れていた。もはや身も心も疲れ果てていた。ようやく、と いう感覚で眠気に見舞われ、私は待ち焦がれたように睡魔に身を委 ねた。例え一時的にでも、この苦痛から開放されるのはありがたい ことだった。意識が薄らいでいくのが自分でもわかった。

 私が見たものは、悪夢だった。恐るべき事に、そこにはテレロボ クサーの攻略法を必死になって考えている私がいたのだ。視界には 相変わらずVBの画面しか存在せず、あまりのおぞましさに私は悲 鳴をあげた。

苦痛
 目を開けると、夢よりも鮮明なVBの画面が飛び込んで来た。そ れは受け入れがたい状況だった。こんなものが今私の前にある全て なのか。
 昨日までの味気ない日常がたまらなくいとおしく感じられ、目に 涙が溢れて来た。
 よく『今の若者はゲームと現実の区別がついていない』と言う人 がいるが、今の私にはゲームだけが現実なのだ。

「うう…」

 私は自分が腑甲斐なくなり、泣いた。だがその涙はVBのアイシ ェードに遮られ、頬を流れることはなかった。VBは、涙を流すこ とさえ許さないのだろうか。

 どうやら時は流れ、日付も変わったらしい。今は朝なのだろうか。 再び人の声や足音が聞こえてきた。急に現実感がよみがえってきて、 私は多少気力を回復できたような気がした。
 唐突に足音が迫ってきた。その足音の主が誰なのか、私にはすぐ にわかった。

「貴様…こんなことをしてただですむと思っているのか。これは拉 致監禁、犯罪行為だぞ!」

 だが、私の訴えに足音の主は嘲笑を返しただけだった。不意に、 私の口内にストローがねじ込まれた。

「飲みたまえ」

 どうやら豆乳(ラックミー:60円)であるらしい。私はかつて ない屈辱を味わっていた。



第二十三回 終


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