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第二十四回  レッド・セミナー#8 錯乱

 私は私なりに、つまらないゲームの楽しみ方を知っているつもり だった。もちろん、プレイしていてつまらないゲームであることに 変わりはないのだが、こういったゲームを遊ぶ場合重要なのはゲー ムそのものの面白さではない。それを遊ぶシチュエーションこそ重 要である。
 例えばつまらないゲームをやりながら、友人知人と一緒になって 好きなだけ悪口雑言を浴びせまくるのは、それはそれで楽しいもの だと思う。

 このテレロボクサーもまた、客観的に判断してもつまらないゲー ム、即ち『クソゲー』に数えられるであろうことは疑いの余地はな い。私はなんとかして、この状況を打開するための苦渋の選択の一 つとして、このテレロボクサーをクリアしてみようと試みていた。 だが…。

 私は疲れていた。何もかも私を疲れさせるための装置でしかなか った。そして私の世界にあるものはテレロボクサーという名の拷問 だけだ。
 他に何があるというのか? 空腹か? 屈辱か? 悪臭か? 全 ては苦痛だ。なんというつまらないゲームなのだ。
 私は絶望感に打ちひしがれ、もう何もしたくない、考えたくもな いと思った。

 時間が騒々しく流れていった。壁の向こうでは、おそらくは生徒 たちの賑わしい雑談が花を咲かせていた。それらが、憔悴しきった 私の頭に高圧電流のように響き渡った。
 私は激しい不快感に駆られ、衝動的に暴れ出したくなった。だが、 私の体はロープで縛られ、自由が全くきかなくなっている。幾度と なく手錠型のパッドを破壊しようと試みたが、パッドは恐るべき強 度で守られている上に、手首の内側に突起物が仕掛けてあって、衝 撃を加えると突起が突き刺さって、激しい痛みを引き起こすのだっ た。

 私の心は敗北感に満たされた。全てがどうでもよくなり、笑い出 したくなった。すると、どこからか私を嘲るような笑い声が聞こえ てきた。ついに本物の幻聴まで聞こえてくるようになってしまった のだろうか。
 だが、次に聞こえてきたそれは、紛れもなく現実の笑い声だった。 それが私に向けられたものかどうかは、どうでもいい。私の平常心 は何処かへと消え失せた。

「今俺を笑った奴は誰だ!」

 私の叫びに応えるものはいなかった。相変わらず騒々しい時間だ けが流れていた。



第二十四回 終


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