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第二十五回  レッド・セミナー#9 死者

 すでにテレロボクサーをプレイする気も失せて久しくなっていた。 ましてやクリアしようなどと、考えるだけで吐き気に襲われる。い や、実際に吐いたこともあった。
 これまでに受けた屈辱や恥辱など、もはやどうでもいい。私は、 一刻も早くこの苦痛から逃れられることを切に望んだ。だが、いか にそれを切望しようとも、耐え難い苦痛は間断なく私の心身を侵し ていくのだった。

 今や私は、眠ることも目覚めることもできない状態になっていた。 起きていようが眠っていようが、私の心象風景にはVBの画面しか 刻まれてはいないのだ。
 私は幻覚を見た。それはVBのゲーム画面だった。そして現実に 返っても、やはりVBの画面しかなかった。寝ても覚めてもVBだ った。夢も現実も、悪夢で満たされていた。

 私は酷い頭痛に見舞われ続けていた。まるで、頭に水銀でも流し 込まれているようだ。頭痛と共に、プレイしてもいないテレロボク サーをプレイしているかのような錯覚が襲ってくる。
 錯覚を振り払おうとすると、その思考が幻覚に投影されて、私の 操るキャラクターが必死にCPUに抗おうとするのだった。しかし、 抵抗は全て軽々とあしらわれ、CPUの攻撃にひれ伏すイメージが 私の心を引き剥がしていった。
 ついに私は耐えられなくなった。

「うおあああああっっっっ!」

 私は気が狂ったように泣き叫んだ。だがそれでも心身の苦痛は容 赦というものを知らなかった。
 このとき、私は悟った。何をしても無駄なのだと。

 私は考えるのをやめたいと願った。もう何もいらないから、せめ て安らかな眠りにつきたいと思った。徐々に思考力が低下していき、 VBの画面がまるで水族館の魚のように遠ざかっていった。

 ふと気がつくと、誰かが勝手にVBをプレイしていた。だが、私 にはどうでもいいことだった。そう、もう何もかもどうでもいいの だ。全ては終わった。安全なのだ。



第二十五回 終


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