第七回へ第六回 戦慄の同好会(前編)
私はある高等学校内で活動していると言われている、VB同好会 と接触することに成功した。この謎のベールに包まれた同好会は、以前から存在そのものが疑 問視されていた。何しろゲーム全般ではなく、VB専門の同好会で ある。無理もないことだった。情報を提供してくれたシンパの中に は、VB同好会は任天堂のサクラが触れ回った狂言であると言う者 さえいた。
実際、私もこの件に関しては半信半疑の状態であったのだが、今 回幸運にもこの同好会の所在を確認し、取材することができたので ある。その経過について説明することは又の機会に譲ろうと思う。
「どうも。私が、VB同好会の会長です」
そう言って出迎えてくれたのは現在高校3年生の、ひょろりと高 い身長を持つ男子生徒だった。
「部室はこちらになります。ご覧になりますか?」
「ええ、もちろん」意外にも、彼らはきちんとした部室を持っているようである。そ れ以前に、同好会としての活動ができるだけの人数を揃えているこ と自体が、私には軽い衝撃だった。だが、この後予想を大きく上回 る精神的衝撃に見舞われることになろうとは、このときの私には知 る由もなかった。
「ここが我がVB同好会の部室です」
そう言って案内されてここまで来たのだが、それらしい部屋など 辺りには見当たらない。ただ一つ、『ボイラー室』と書かれた地下 室だけが目についた。
「あの…まさかとは思うのですが」
「ご想像の通りですよ。『ここ』が我がVB同好会の部室です」彼は私の発言を遮るように、口元に笑みさえ浮かべて言い放った。 私は彼に促され、吸い込まれるように地下への階段を降りていった。
そこはボイラーの運転が発する轟音と漆黒の暗闇が支配する空間 だった。事実上、それ以外のものはここにはあるとは思えない。
「本当にここが部室なのですか?」
私は不安に駆られ、思わず会長を名乗った男子生徒に尋ねていた。 その不安は、まだその生徒がここに実在するのだろうか、という不 安であったのかもしれない。
「もちろんです。聞こえませんか? あの音が」
「音?」言われて耳を澄ましてみると、確かにボイラーの轟音に混じって 何か電子音のようなものが響いている。それも、おそらくは複数の。
「どうぞ。懐中電灯です」
会長に手渡された懐中電灯をすぐさまつけてみる。この暗闇では、 誰でもそうせずにはいられないだろう。だが、明かりに照らされた その光景を一目見て、私は慄然と立ち尽くしたのだった。
なんと、そこでは会長を除く5人の生徒が5人揃って一心不乱に VBをプレイしていたのである。それは、異様を通り越した凶凶し い光景だった。
第六回 終