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第七回  戦慄の同好会(後編)

戦慄の同好会
 底知れぬ不気味さが私を動揺させていた。懐中電灯の中途半端な 明かりは却って闇を際立たせ、VBをプレイしている彼らの暗い影 を映し出すのだった。

「何故…何故電気をつけないのですか?」

 私の問いに、会長はまるで準備していたかのような口調で答えた。

「VBは明かりを漏らすことなくプレイすることができる、唯一の ゲーム機なのですよ。この特性を利用しない手はありません」

 しばしの沈黙があった。その間、私は彼の言動から納得のいく解 答を導きだそうと努力したのだが、無駄なことであった。

「…あの…何故明かりを漏らしてはいけないのですか?」
「学校にはVBを持ち込んではいけないことになっているのですよ。 わかりますか? この意味が」

 …! 私は会長が、いや、この同好会が何故このような不可解と もいえる行動をとっているのか、ようやく理解した。つまり、彼ら はこのボイラー室に潜伏していたのである。

「わかっていただけたようですね…では、この辺で面白いものをお 見せしましょう」

 そう言って、唐突に会長は闇に紛れた。しばしの間、私は彼の姿 を見失った。再び会長が姿を現したとき、その手には改造されたら しいVBがあった。

「ほう…ヘッドギアのような形ですね。頭に固定して遊べるように したのですか」

 しかし私の予想に対し、彼は苦笑を洩らした。

「確かに当初はそのようなコンセプトで改造したのですが…現在は すでに、遊ぶためのものではなくなっています」
「…どういうことでしょうか?」
「これは拷問装置です」

 拷問装置!? あまりにも衝撃的な言葉に、私は声をあげること すらできずに硬直していた。会長はそんな私に構わず、淡々と説明 を始めた。

「以前、会を抜けようとして、VBを中古屋に売りさばいた者がい ましてね…。我々としては、不本意ながらも制裁措置を取らざるを 得ませんでした。そのときに使用されたのが、これです」

 会長はそう言って、誇らしげに改造VBをかざした。このときに なって私は、すでに彼の視界に私が入っていないことに気付いた。

「これは頭に被ってロックすると、自分では絶対に外すことができ ません。我々は会を抜けようとした者にこれを被せ、『テレロボク サー』をクリアするまでは外してやらないことにしました。しかし 発狂寸前までいったときには、さすがに勘弁してやりましたが」

 このとき私は、彼の口元に邪悪な笑みが浮かんでいたのを見逃さ なかった。

 この日、私は予定よりかなり早めに取材を切り上げたのだった。 それが、賢明な者のすることだと思ったからだ。



第七回 終


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