3.チューンナップ&ワクシング・テクニック


滑るスキーの条件

 クロスカントリースキーにおいては、精神・技術・体力(心・技・体)に加え、道具とその状態の良し悪しによって、滑走の効率、スピードが大きく左右されます。ここでは、道具のうち、スキー板に絞り、滑るスキーに仕上げるまでのプロセスについて解説します。

 滑るスキーとは、下のピラミッドの条件(1〜9)を全て満たしたものを言います。ワックスは滑走性を高めるのに不可欠ですが、ワックスさえあっていればどんなスキーでも滑るわけではないことに注意してください。順を追って以下に、説明します。

 

1.スキー長さが合っている
滑走性と操作性の兼ね合いから、適正な長さがあります。スケーティング用では(身長+20cm)、クラシカル用では(身長+30〜35cm)が目安となります。

2.スキーベンドが合っている
 まず、フローリングなどの平らな床面の上で、金具を取り付けたスキーにブーツを履いた状態で乗り、ハガキなどの薄い紙をスキー滑走面の下に挟み、これを前後に動かします。クラシカル用では、両足加重時におよそ踵付近からつま先前方20cm程度まで引っかかりなく動き、片足加重時には土踏まずから前方に20cmほど動く程度、スケーティング用では、両足加重時におよそ踵付近からつま先前方10cm程度まで引っかかりなく動き、片足加重時には踵前方からつま先付近まで動く程度のベンドが好ましいといわれています。
 ショップに、金具を取り付けた状態で商品のスキーがおいてあるわけではないので、購入前にこのような方法でベンドを確認することは難しいと思います。ショップによっては、機械的にスキーに加重をかけ、ベンドを計測する器械を備え付けているところもありますので、良く店員さんと相談してください。次の3〜5では、滑走面の物理形状について説明します。

1、2のまとめ:
ここで説明した1と2は、購入時に決まってしまい、後から調整することは不可能です。購入に際しては、ショップでよく相談してください。また購入した時にはジャストフィットでも、身長、体重が大きく変わった、シーズンを重ねているうちにベンドが柔らかくなったりと、自分に合わなくなることもあるということを注意して下さい。

3.滑走面が平坦になっているか
 滑走面が平坦でなく、反りや凹みなど
歪みがあると、ワックスがけに用いるアイロンを当てたとき、滑走面に片当たりし、そこに熱が集中し、滑走面を焼いてしまうことがあります。新品の場合でも、念のためメタルスクレーパーで滑走面をなぞるなどして、滑走面の平坦性を確認しておきましょう。0.5mm程度までの歪みなら、ストーンマシンで後から加工できます。また、始めは平坦であったスキーでもワクシングのために使用するアイロンの熱を繰り返し加えることで、徐々に平坦性が低下します。特にトップやテール部のエッジ付近に、スクレーピング時にワックスの削り残しが出始めたら要注意です。

4.滑走面に大きな傷がない
 滑走面の傷は、滑走性低下の原因となります。滑走方向に対し平行の縦傷はそれほどではありませんが、滑走方向に対し直角方向の横傷は大きな抵抗となります。深く大きな傷の場合は、リペアキャンドルによる修復が必要です。
 傷ではありませんが、トップとテールのエッジ部も雪面に対し抵抗となりやすいので、スキー購入時は忘れずにサンディングしておきましょう。ただし、エッジの落としすぎや、中心部のエッジも落としてしまうと、横滑りの原因となりますので、注意しましょう。


.滑走面が焼けたり酸化してない
 ワクシングのために用いるアイロンで、滑走面に過度に熱を加えると、滑走面は変質してしまいます。また、滑走面のメンテナンスを行わず滑走を繰り返したり、空気中に長期間放置したりすると、滑走面が白く変色、酸化します。滑走面の焼けや酸化は、滑走性を高めるのに必要な滑走面へのワックス浸透を妨げます。

3〜5のまとめ:
滑走面が平坦でなかったり、浅い線状の傷があったり、また滑走面に焼けや酸化が見られる場合は、サンディング(手加工)やストーンマシン(機械加工)によるチューンナップ工程を参考に滑走面を平坦、修復、リフレッシュして下さい。
 
.ストラクチャーが雪質に合っている
 ストラクチャーとは、サンディング(手加工)やストーンマシン(機械加工)で滑走面につける細かな筋状の溝のことです(3〜8は一連のプロセス)。雪質によって最適な溝の太さ、深さ、パターン(溝の長さ、配置)があります。溝が太く、深いものは滑走面をなぞった指先で感じることができますが、目視でしか確認できない細かなものもあります。
 ストラクチャーの役目は、滑走面の水分量を調節し、スキーの滑走性を高めることにあります。例えば、2枚のガラス板の上に水を垂らしその上にガラス板を押しつけ、2枚のガラス板の間全面に水の膜を作ったとき、2枚のガラス板同士が吸い付いて離れなくなります(「サクション」)。スキー滑走面の下に余分な水があると、ガラス板と同様に「サクション」が起こり、滑走中に突然つっかかるなど、著しく滑走性が損なわれます。ストラクチャーには滑走面の余分な水を筋状の溝で逃がしたり、大きな水の膜の形成を抑制する役目があります。余分な水を作り出す高温多湿の雪にあったストラクチャーは、多くの水を逃がす必要があることから太く、深い溝となります。一方、水分の少ない乾燥した雪の場合、ストラクチャーの溝と雪面との抵抗で適度な水を作り出し保持し滑走性を高める役割もあります。この場合は、細かく、浅いストラクチャーとなります。
 無難で適用範囲の広いもの(例えば、水膜形成の抑制と適度な水保持の両者を兼ね備える、連続した溝ではなく、細切れの溝からなる「クロス」など)から、チャレンジングで適用範囲の狭いもの(例えば、細切れの溝が、逆Vのに配置される「シェブロン」など)まで、いろいろなストラクチャーパターンが考案されています。
 細かなストラクチャーの上に後から大きなストラクチャーを重ねることは出来ますが、最初に大きなリラーを入れると、逆戻りはできません。ですから、非常に水分の多い雪や水が浮きかけているような状態の時には、レース直前に、スパーリラー(0.75mm以上)などを用いて、手で入れることになります。
 また、サンディング(手加工)やストーンマシン(機械加工)でストラクチャーを入れた後は必ず、7のケバ取り(ケバ取りを促進するために8のワクシングも)必要となります。
 シーズン途中で、大きく雪質が変わった時、ワクシング・スクレーピング・ブラッシングを繰り返し、ストラクチャーの溝が薄れてきた時、傷でストラクチャーを大きく壊した時に、ストラクチャーの入れ直しが必要となります。一般レーサーは、シーズン前あるいはシーズン終了後の年1回で十分だと思います。

リニア
クロス
(右)バイアスクロス
シェブロン
図.ストラクチャーパターンの例


6のまとめ:
滑走面の水分量を調節し、スキーの滑走性を高めるのがストラクチャーです。チューンナップ工程を参考にサンディング(手加工)やストーンマシン(機械加工)で加工してください。大きなストラクチャーは、レース直前にスパーリラーなどを用いて、手で入れます。

.滑走面にケバがたっていない
 サンディング(手加工)やストーンマシン(機械加工)による処理をした後、滑走面には細かなケバ(毛羽)が立ちます。このケバは、雪面に対し抵抗となり、スキーの滑走性を低下させるので、ブラッシングを行い、きれいに取り除く必要があります(3〜8は一連のプロセス)。

.滑走面にワックスが浸透している
 レース用ワックスの効果を最大限に引き出すには、ホットワクシングを繰り返し、滑走面のワックス浸透性を十分に高めておく必要があります(3〜8は一連のプロセス)。7と8のプロセスは、シーズン前までに終わらせるようにします。

 左のグラフは、滑走面最表面から深さ方向にワックスがどの程度、浸透しているかを表したものです。通常のアイロンによるワクシングでは、1回で0.1mm強しか浸透しないことがわかります(□)。ワクシングを繰り返したり、それを50℃程度で長時間保持したりすると、0.3mm以上にわたり浸透することが可能となります(■)。

 挿図で示したのが、滑走面の断面写真です。青い部分が滑走面、黄色がワックスです。滑走面組織の隙間にワックスが染み込んでいる様子がわかります。

ここで浸透させるワックスは、純パラフィン系のワックスで、柔らかい(低融点)のものから始め、徐々に固い(高融点)のものへとシフトしながらホットワクシングを繰り返し、浸透量、浸透深さを進めていきます。

(グラフ、挿図とも、04/05TOKOカタログから抜粋)

7、8のまとめ:
滑走面のケバを除去し、滑走面のワックス浸透性を高めるには、ワクシング(低→高融点)・スクレーピング・ブラッシングを繰り返します。初期のベースワックス処理を参考にケバ取り、ベース作りを行って下さい。

.ワックスが雪質にあっている
 滑るスキーの仕上げは、雪面と直接接する滑走面最表層へのワクシングです。経験に基づく読みに従いワックス選択を行います(読みを外し、さんざんな結果に終わることも多々あります)。ワックスメーカは、毎年のように新製品を投入してきますので、情報のアンテナ感度を上げておくことも重要です。ここでのワックスは、撥水性に優れたフッ素系が中心となります。高価なワックスですので、手順を間違えずに、確実にワクシングして下さい。

9のまとめ:
滑るスキーの仕上げです。ベースワックス工程レースワックス工程(クラシカル用では加えてキックゾーンに、ベース処理ワックス処理が必要)を参考にワクシングしてください。


(2007年 5月 12日 (土)更新)
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